国税庁が設置した「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第3回会議の議事要旨と資料が公表されました。
これまでの会議では、
・類似業種比準方式の妥当性
・「時価」と事業承継支援の整理
・M&A実務との整合性
といった基本的な論点が議論されてきました。
一方、今回の会議では、それらを踏まえ、より具体的な評価方法や制度設計について踏み込んだ議論が行われています。
現時点で制度改正の方向性が決まったわけではありませんが、今後の見直しを考える上で注目すべき論点を整理してみます。
論点① 現行の評価方法は事業承継の実態を反映しているのか
委員からは、現行の純資産価額方式は実質的に清算価値を基礎とした評価となっており、事業継続を前提とした企業価値との関係をどのように考えるべきか、との問題意識が示されました。
実際には、多くの中小企業では会社を清算するのではなく、事業を継続したまま次世代へ承継することが前提です。
また、実際に会社を清算する場合には、
・清算費用
・退職金
・税負担
・各種処分費用
などが発生します。
こうしたコストが十分反映されないまま株価が評価されることについて、中小企業の円滑な事業承継に影響を及ぼす可能性があるとの懸念が示されました。
「時価」をどのように捉えるかという議論が、より現実の事業承継の実態を踏まえたものへと進みつつあることがうかがえます。
論点② 評価の客観性と実務負担をどう両立するのか
評価方法を精緻化すれば、理論的には実態に近い株価を算定できる可能性があります。
しかし、その一方で、
・評価作業が複雑になる
・納税者や税理士の負担が増える
・評価結果のばらつきが大きくなる
といった問題も生じます。
そのため委員からは、「客観性」「予見可能性」「簡便性」を維持することの重要性も指摘されました。
相続税評価は全国で広く利用される制度である以上、理論的な正確性だけではなく、誰が評価しても一定の結果になることも重要です。
制度設計の難しさが改めて浮き彫りになったといえるでしょう。
論点③ 新たな評価理論は税務評価に活用できるのか
今回の会議では、会計学の観点から「残余利益モデル」の適用可能性についても説明が行われました。
残余利益モデルは、会社の純資産だけではなく、将来生み出す利益も企業価値に反映させる考え方です。
また、法人税の課税所得は、企業の収益力を客観的に示す指標の一つであり、これを評価に活用できないかという視点も示されました。
もっとも、委員からは、
・理論的な妥当性
・税務上の実務負担
・客観性や検証可能性
とのバランスを十分考慮すべきとの意見も示されています。
理論として優れていても、そのまま税務評価へ導入できるとは限らないという点は、第2回会議で議論されたDCF法と共通する課題といえるでしょう。
今回の議論から見えてきたこと
第3回会議では、具体的な改正案こそ示されませんでしたが、議論は確実に次の段階へ進んでいるように感じます。
議事要旨から読み取れるポイントは、
・事業継続を前提とした評価をどう考えるか
・清算コストなど実態をどこまで反映するか
・理論的な精緻さと実務上の使いやすさをどう両立するか
という点です。
つまり、「評価方法を見直すべきか」という議論から、「どのような評価方法なら実務として機能するのか」という議論へ移りつつあることがうかがえます。
まとめ
非上場株式評価の見直しは、評価方法の変更にとどまらず、制度全体のあり方を見直す議論へと進みつつあります。
「適正な時価とは何か」という根本的な問いに加え、「納税者が納得できる制度であること」「実務上も運用できる制度であること」という視点が強く意識され始めています。
有識者会議での検討は、評価方法そのものだけでなく、公平性・客観性・実務負担をどのように調和させるかという制度設計の段階へ入りつつあるように感じます。
評価方法が見直されれば、相続税や事業承継税制だけでなく、中小企業の事業承継にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
今後、有識者会議でどのような具体案が示されるのか、引き続き注目していきたいと思います。