企業の研究開発を後押しする「研究開発税制(研究開発税額控除)」を巡り、制度の効果や恩恵の偏りを巡る議論が強まっています。
5月18日付の日本経済新聞によると、財務総合政策研究所(財総研)は、企業の税務申告データを用いて研究開発税制の実態を初めて分析しました。政府税制調査会などで以前から指摘されてきた「大企業偏重」や「投資促進効果への疑問」が、データでも裏付けられた形です。
大企業に集中する減税メリット
研究開発税制は、企業が支出した試験研究費の一部を法人税額から控除できる制度で、日本の代表的な政策減税の一つです。年間の減税効果は約1兆円規模とされています。
もっとも、報道では、その恩恵を受けている企業は全法人の1%未満で、減税額ベースの約7割を資本金100億円超の大企業が占めるとされています。特に自動車や製薬など、研究開発集約型産業への集中が目立つようです。
もちろん、研究開発には多額の資金が必要であり、大企業ほど利用額が大きくなるのは自然な面もあります。ただ、「巨額の政策減税が一部企業に偏っている」という点から、税優遇のあり方を見直し、財源を中小企業やスタートアップ支援へ振り向けるべきだとの議論も出ています。
また、研究開発税制は類型や計算方法が複雑化していることから、制度の透明性や使いやすさの観点からも簡素化を求める声があります。
「研究開発を増やす効果」に疑問も
研究開発税制には、研究開発費を増やした企業ほど控除率が高くなる上乗せ措置があります。しかし、財総研が基準値付近の企業分布を分析したところ、減税メリットが大きくなる境界付近で企業行動に明確な変化は確認できなかったとされます。
さらに、昨年11月12日の政府税制調査会の専門家会合では、財務省から、2020年度から2022年度にかけての売上高に対する試験研究費割合の伸びは中央値で約3%程度にとどまり、近年の物価・賃金上昇率とほぼ同水準だったとの分析が示されました。
研究費には人件費や原材料費が含まれるため、インフレ環境では名目額が自然に増えやすくなります。そのため、物価や賃金が上昇傾向にある現状において、従来の制度は試験研究を実質的に増加させるインセンティブとして機能していないのではないかと財務省は分析しました。
この点、財総研も「税制のインセンティブに対する企業行動の反応は検証の余地がある」と指摘しています。
海外委託費の見直しとAI支援
海外委託費も論点の一つです。従来は海外への委託研究費も一定範囲で控除対象でしたが、2026年度税制改正では、海外委託費に対する税額控除が段階的に制限・縮小する見直しが行われています。
一方、同改正では、AIや量子技術など先端分野を対象とする新たな減税区分も創設されました。その反面、大企業については、研究開発費を十分に増やさなければ高い控除率を受けられないよう、2027年度から要件が厳格化される予定です。
近年は、防衛費増額や社会保障費増加などを背景に、財源確保の議論が強まっています。
その中で、
・本当に政策目的を達成しているのか
・特定企業への過度な優遇になっていないか
・税収減に見合う効果があるのか
という「政策減税の検証」が、これまで以上に重視される流れになっています。
最後に
今回注目されるのは、税務申告データを用いた本格的な分析が行われた点でしょう。政策減税は「導入すること」自体が目的化しやすい面がありますが、本来は、どの程度の政策効果があり、誰に恩恵が及んでいるのかを継続的に検証することが重要です。
今後は研究開発税制に限らず、租税特別措置全般についてデータに基づく政策効果の検証を通じて、政策目的と実際の効果のバランスが、より厳しく問われていくことになりそうです。