非上場株式の相続税評価については、これまでも「評価方法によって税負担が大きく変わる」という構造的な課題が指摘されてきました。
とりわけ、2024年11月の会計検査院の指摘は、その問題を改めて浮き彫りにしたものといえます。
詳しくは、以下のブログをご参照ください。
非上場株の評価は、「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」という複数の手法を使い分ける仕組みとなっていますが、実務上はこの違いを利用することで、評価額を大きく引き下げる余地が存在しています。
実際、評価方法の違いにより、同じ会社の株式であっても評価額が数分の一、場合によっては10分の1程度にまで乖離するケースもあるとされます。
こうした状況について、会計検査院は「公平性が確保されているとは言えない」と指摘しました。
「利用される制度」への変貌
こうした背景を踏まえると、現行制度の位置づけも見えてきます。
そもそも、現行の評価ルールは、1964年に整備された財産評価基本通達に基づくものです。
その後、1980年代以降の事業承継問題への対応として、評価額を抑える方向での見直しが重ねられてきました。
これは、企業の円滑な世代交代を後押しするという政策的な意図に基づくものです。
しかし、その結果として、
・評価方法の選択
・配当や利益の調整
・資産構成の入れ替え
といった手法を組み合わせることで、形式的にはルールに従いながらも、実質的に税負担を大きく軽減できる余地が生まれていきました。
円滑な事業承継への対応が、結果として「広く利用される手法」となっていったともいえます。
総則6項による対応の限界
こうした過度な節税に対して、国税当局は「総則6項」という例外規定を用いて対応してきました。
これは、形式的に通達に従っていても、「著しく不適当」と認められる場合には、評価を否認できるというものです。いわば「伝家の宝刀」とも言われる規定です。
しかし、この手法には限界も見え始めています。
・適用件数の増加
・裁判で争われるケースの増加
・判断の予測可能性の低さ
といった問題が顕在化してきました。
個別対応ではなく、ルールそのものを見直す必要性が高まっていたと考えられます。
「評価差」を利用した節税の変遷
こうした見直しの動きは、非上場株に限ったものではありません。
近年の相続税制では、いわゆる「タワーマンション節税」が問題視され、マンション評価の見直しが行われましたが、さらに2027年からは賃貸不動産についても評価ルールの見直しが予定されています。
具体的には、2026年度税制改正により、2027年1月1日以降の相続について、
① 相続・贈与前5年以内に取得・新築した賃貸不動産は、路線価ではなく取得価額(時価の約80%)を基準に評価
② 不動産小口化商品については、取得時期にかかわらず時価評価
といった見直しが行われる見込みです。
これにより、従来見られた
・相続直前の不動産取得による評価圧縮
・小口化商品を用いた相続対策
といった手法は、相当程度制限される可能性があります。
これらの動きに共通しているのは、「実態とかけ離れた評価差を利用した節税」に対する見直しという点です。
不動産においては、時価と相続税評価額の乖離、
非上場株においては、評価方式による乖離。
いずれも制度上認められた仕組みではあるものの、結果として過度な税負担の軽減につながっているケースが問題視されてきました。
今回の非上場株評価の見直しも、こうした流れの延長線上にあるものと位置付けることができそうです。
2027年度税制改正に向けた議論の開始
こうした背景のもと、国税庁は非上場株の評価方法の見直しに向けた検討に着手する方針を示しています。
日本経済新聞の報道によれば、
・4月中に有識者による検討会を設置
・年内に議論を進め、2027年度税制改正での見直しを視野
とされており、制度改正が現実の政策課題として動き出したといえます。
もし実現すれば、評価ルールの抜本的な見直しとなり、大きなインパクトとなる可能性があります。
今後の方向性と影響
現時点で具体的な制度設計は明らかではありませんが、議論の方向性としては、
・企業の収益力をより反映する評価方法
・規模の大きい企業における過度な評価引下げの是正
といった点が検討対象になると考えられます。
その結果として、
・相続税負担が増加するケースの拡大
・これまで成立していた節税スキームの縮小
が生じる可能性があります。
問われるのは「公平性」と「事業承継」のバランス
一方で、非上場企業の多くは中小・零細企業であり、事業承継の問題は依然として深刻です。
評価額の引上げは、そのまま相続税負担の増加につながり、
・後継者の資金負担
・事業継続への影響
といった新たな課題を生む可能性もあります。
このため、
・事業承継税制の使い勝手の見直し
・納税猶予制度との一体的な設計
といった観点も含めた制度全体のバランスが問われることになります。
おわりに
これまでの相続税における評価ルールは、事業承継を支援する政策的配慮と課税の公平性の間で調整されてきた仕組みでした。
しかし、
・マンション評価の見直し
・賃貸不動産評価の見直し
・そして非上場株評価の見直し
といった一連の動きは、個別の節税手法への対応にとどまらず、相続税における「評価のあり方」そのものが問い直されている局面に入ったことを示しているようにも見えます。
特に、評価差を利用した過度な節税については、一定の歯止めがかかる方向で議論が進む可能性が高いと考えられます。
もっとも、制度がどのような形に落ち着くかによって、実務への影響は大きく異なります。
今後の議論の動向を踏まえつつ、
「どのような評価が本来の時価に近いのか」
そして「どこまでを許容すべきか」
という視点から、引き続き注視していく必要がありそうです。