· 

天網恢々 ― 公開情報の時代に残る足跡

インターネットやSNSの普及により、個人が自分の生活や考え方を発信することは、すっかり日常の風景になりました。

ブログやSNSには、旅行や食事、買い物など、さまざまな日常が投稿されています。こうした発信の背景には、「誰かに見てもらいたい」「共感してもらいたい」といった、人が自然に持つ気持ちもあるのでしょう。

 

しかし、その「見せたい」という気持ちが、思わぬリスクにつながることもあります。

 

「天網恢々、疎にして漏らさず」

国税の世界では、しばしば次のような言葉が引き合いに出されます。

 

「天網恢々、疎にして漏らさず」

 

天の張る網は広く大きく、一見すると粗いように見えても、悪事を逃さないという意味の言葉です。

 

もちろん、税務調査の基本は帳簿や取引資料の確認です。しかし現在では、それに加えて多様な情報が参考とされることがあります。

 

公開情報が持つ意味

近年は、インターネット上の公開情報も含め、さまざまなデータが収集・蓄積され、分析される時代になっています。

 

例えば、

・SNSやブログなどの公開情報

・動画配信サービス

・ECサイト

・ASP(Affiliate Service Provider)などのアフィリエイト・プラットフォーム

といった各種プラットフォームに関する情報です。

 

実際に、こうした公開情報やプラットフォームのデータが分析され、著名なインフルエンサーなどが調査対象となるケースも報道されています。

 

 

もちろん、SNSの投稿だけで何かが判断されるわけではありません。しかし公開された情報は、他の情報と組み合わされることで、ひとつの断片として意味を持つことがあります。

 

例えば、

・事業規模に比べて過度に豪華な生活ぶりの投稿

・収入状況と整合しない高額資産の公開

・継続的な高額消費の様子

 

こうした情報が別の情報と組み合わされることで、結果として調査のきっかけにつながる可能性も否定できません。

 

このような情報分析の基盤も、今後さらに高度化していくとみられます。

 

現在、国税庁では「国税総合管理システム(KSK)」と呼ばれる基幹システムが運用されていますが、2026年9月24日からはこれに代わる次世代基幹システム(KSK2)が本格導入される予定です。

 

KSK2の導入により、法人税・所得税・相続税・贈与税などのデータが一元的に管理されることになります。

すでに税務調査の選定などにおいてはAIの活用が進められていますが、さらにインターネット上の公開情報などの外部情報も取り込まれるようになれば、AIが分析できるデータは格段に拡充されることになります。

 

こうした環境の変化は、情報社会における税務行政のあり方にも少なからず影響を与えていくでしょう。

 

人は少し羽振りが良くなると見せたくなる

一般に、人は生活に余裕が出てくると、それをどこかで発信したくなるものです。

 

高額な買い物や旅行、生活の変化などを、ブログやSNSで紹介するケースも見られます。本人としては日常の一コマのつもりでも、それが公開情報として残ることになります。

 

「たまり」を見るという視点

税務の世界では、資金の蓄積を俗に「たまり」と呼ぶことがあります。

 

事業で得た利益が、どこに、どのような形で残っているのか。現金なのか、預金なのか、それとも別の資産なのか。

 

税務調査では、この「たまり」がどのように形成されたのかを確認することが重要なポイントになります。公開情報は、その分析の過程で間接的に参考となることもあります。SNSなどの投稿が、ときにそのヒントになることもあるでしょう。

 

超富裕層ほど目立たない

興味深いことに、超富裕層と呼ばれる人たちの中には、むしろ目立たない生活をしているケースも少なくありません。

 

私自身、国税局に在職していた際に超富裕層調査に関わる機会がありましたが、そうした方々ほど、資産状況を外に示すような発信はあまり見られませんでした。ブログやSNSなどの公開情報から資産状況をうかがい知ることは、むしろ難しい場合も多いと感じたものです。

 

それが警戒心によるものなのか、あるいはその人の生き方なのかは分かりません。ただ、結果として外からは分かりにくい存在になっていることは確かでしょう。

 

狙っているのは税務当局だけではない

注意すべきなのは、公開情報を見ているのが税務当局だけではないという点です。

 

豪華な生活ぶりや高額資産を公開することは、場合によっては

・詐欺グループ

・窃盗団

・強盗グループ

など、犯罪組織の目にも触れる可能性があります。

 

実際、近年はSNSを通じて資産状況や生活パターンが把握され、犯罪につながるケースも指摘されています。

そうした投稿が、思わぬ形でリスクを呼び込むこともあるというわけです。

 

「見せない」という視点

情報リテラシーというと、膨大な情報の中から必要なものを見つけ出し、その真偽を見極めて適切に活用する能力として語られることが多いでしょう。

 

しかし公開情報が広く共有される時代には、

「何を公開するか」だけでなく

「何を公開しないか」

を考える視点も重要になりつつあります。

 

「見せたい」という気持ちは自然なものです。

しかし、その先にあるリスクにも少しだけ想像力を働かせてみる。

 

公開情報の時代には、そんなバランス感覚も求められているのかもしれません。

 

公開情報の時代に求められる視点

インターネット社会では、私たちの行動や発信はさまざまな形で記録され、蓄積されていきます。

投稿や写真、コメントなどが積み重なることで、思いがけず一つの情報の集まりになることもあります。

 

「天網恢々、疎にして漏らさず」

という言葉は、こうした情報社会の特徴を、ある意味で象徴しているのかもしれません。

 

公開情報が広く共有される時代だからこそ、何を発信するのか、どこまで公開するのかを考える視点も、これからますます大切になっていくのではないでしょうか。

 

情報社会では、「発信したこと」だけでなく、「発信しなかったこと」もまた、一つの判断なのかもしれません。