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国保逃れ」に厚労省が対策へ ― マイクロ法人スキームと社会保険制度の公平性

最近、「国保逃れ」と呼ばれる問題が改めて注目されています。

個人事業主などが、本来加入すべき国民健康保険ではなく、別の仕組みを利用して社会保険に加入し、保険料負担を抑えるケースです。

 

この問題は、制度の公平性や信頼性にも関わるものとして、厚生労働省が対策に乗り出す動きも出ています。

 

もっとも、この問題は以前から指摘されてきたテーマであり、「ようやく対策に乗り出すのか」という印象を持つ人も少なくないのではないでしょうか。

制度の抜け道が広く知られるようになった後に対応が始まる。今回の動きにも、そうした印象が拭えません。

 

「国保逃れ」とは何か

「国保逃れ」とは、個人事業主やフリーランスなど、本来は国民健康保険と国民年金に加入する立場の人が、一般社団法人の理事などに就任して社会保険に加入することで保険料を抑える仕組みを指します。

 

「一人社長」の法人であっても社会保険への加入が義務付けられており、給与や役員報酬を基準に社会保険料が計算されるため、役員報酬を低く設定すれば保険料を低く抑えることができます。その場合、個人に事業所得があっても社会保険料の算定対象とはならないため、どれだけ所得があっても保険料には反映されません。

 

この仕組みは「マイクロ法人スキーム」とも呼ばれ、個人事業の所得と社会保険料の計算対象が分離される点を利用したものです。こうしたスキームは制度の趣旨に照らせばグレーな側面があり、社会保険制度の公平性を損なうとの批判があります。

 

政治家の関与で問題が表面化

今回、この問題が大きく報道されるきっかけとなったのは、日本維新の会に所属する地方議員によるケースでした。

 

日本経済新聞によれば、ある県議は一般社団法人に月5万円の会費を支払い、理事として月1万1700円の報酬を受け取る形で社会保険に加入していました。

 

その結果、標準報酬月額は最も低い区分となり、厚生年金を含めた保険料は月1万1500円程度に抑えられていたといいます。

理事としての業務は「簡単なアンケートに月2回回答する程度」だったとされています。

 

会費や保険料を含めても、国民健康保険と国民年金を負担するより安くなる仕組みだったと報じられています。

この問題を受け、日本維新の会はこうした行為を「脱法的行為」として、関与した地方議員ら6人を除名処分としました。

 

背景にある社団法人制度

この問題の背景には、一般社団法人の設立の容易さもあります。

 

一般社団法人は2008年の制度改正によって設立要件が大きく緩和されました。

理事1名を含む社員2名がいれば設立でき、資本金も不要で、登記のみで設立できるためです。

 

その結果、近年は社団法人の設立が急増しています。

 

帝国データバンクの調査によると、近年設立された社団法人のうち、事業活動が確認できた法人はわずか約3%にとどまったといいます。この数字は、実態のない「ペーパー法人」が相当数存在している可能性を示唆しています。

 

厚労省が適用判断の厳格化へ

こうした状況を受け、厚生労働省は社会保険の適用判断を厳格化する方針です。

 

日本経済新聞によれば、2026年3月中にも、日本年金機構に対し次のような判断基準を示す通知を出す方向と報じられています。

例えば、

・法人に払う会費が役員報酬より多い場合は、報酬として認めない

・アンケート回答や勉強会参加などは業務とは認めない

といった基準が検討されています。

 

厚生労働省は、役員であっても

・経営参画を内容とする労務の提供があるか

・報酬が業務の対価として継続的に支払われているか

といった点を総合的に判断する必要があるとしています。

 

所得税との関係 ― マイクロ法人のもう一つの側面

さらに、この問題は社会保険だけの話ではありません。

 

マイクロ法人は、所得税対策として利用されるケースもあります。

2006年施行の会社法により最低資本金制度が廃止され、小規模な会社でも設立しやすくなり、個人事業主が法人を設立し、自分に役員給与を支払うことで、法人税と所得税の両面で税負担を調整できるためです。

 

こうした構造は以前から問題視されており、かつては

「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度」

という制度が設けられていました。

法人側では役員給与が経費となり、個人側では給与所得控除が適用されるため、給与所得控除相当額を損金不算入とし、税負担の公平を図る趣旨から創設されたものであるとされています。

 

これは、一人オーナー会社などで役員給与を損金算入することにより

・法人では経費として控除

・個人では給与所得控除が適用

という形で、いわば「経費の二重控除」に近い効果が生じることを抑制するための制度でした。

 

もっとも、この制度は実務上の影響や制度の複雑さなどから、導入からわずか数年で廃止されています。

 

ただ、現在のようにマイクロ法人が多数設立されている状況を見ると、所得税の観点からも何らかの制度的な対応が議論される可能性はあるのかもしれません。

 

制度の信頼をどう守るか

社会保険制度は、社会全体でリスクを分担する仕組みです。

その前提となるのは、「負担の公平性」です。

 

制度の抜け道が広がれば、制度に対する信頼そのものが揺らぎかねません。

今回の問題は、単に一部のスキームの是非という話にとどまらず、

・社会保険制度の設計

・法人制度のあり方

・自営業者と会社員の負担構造

といった、より広い制度設計の問題を浮き彫りにしているともいえるでしょう。

 

制度の公平性と実態のバランスをどう取るのか。

今回の問題は、その難しい課題を改めて問いかけているように思えます。

 

テレビドラマ「おコメの女」のセリフに

「正直者が馬鹿を見ない世の中のために」

という言葉がありますが、まさに今回の問題は、その言葉を思い起こさせるものなのかもしれません。