2023年10月に導入されたインボイス制度は、事業者間取引における消費税の透明性を高める一方、特に免税事業者や小規模事業者に大きな影響を及ぼしてきました。制度開始にあたっては急激な負担増を避けるため、いくつかの経過措置や特例が設けられていましたが、制度定着が進む中で、その見直しが本格化しています。
2026年度税制改正では、こうしたインボイス関連特例について「段階的な縮小」と「租税回避防止」の二つの観点から重要な改正が行われる予定です。本稿では、インボイス特例の内容と改正の背景、そして今後の実務への影響について整理します。
インボイス制度における経過措置とは
インボイス制度には、制度導入による急激な負担増を緩和するため、主に次の2つの経過措置が設けられています。
一つは、免税事業者からの仕入れであっても一定割合の仕入税額控除を認める「8割特例(仕入税額控除の経過措置)」です。
もう一つは、免税事業者が新たにインボイス登録した場合に、納税額を売上税額の一定割合に軽減する「2割特例」です。
2026年度税制改正では、これら二つの経過措置の双方について見直しが行われる予定です。
8割特例(買い手側)
インボイス制度では、原則として「適格請求書発行事業者(課税事業者)」からの仕入れでなければ、仕入税額控除を行うことができません。
もっとも、制度導入直後からこの原則を適用すると、免税事業者との取引が一気に不利となり、取引停止や価格転嫁などの混乱が生じる恐れがありました。そこで設けられたのが、免税事業者からの仕入れであっても一定割合の仕入税額控除を認める「経過措置」です。
この経過措置では、次のように控除割合が段階的に縮小される仕組みとなっています。
・制度開始当初:仕入税額相当額の 8割控除
・将来的には控除不可へ移行
これは、免税事業者との取引を直ちに排除しないための経過的な措置です。制度開始時点ではあくまで「一時的な緩和措置」と位置づけられており、恒久制度ではありませんでした。
見直される仕入税額控除割合のスケジュール
今回の改正では、この控除割合の縮小スケジュールが明確に再整理されました。
改正後の控除割合
・2026年10月〜2028年9月(2年間):7割控除
・2028年10月〜2030年9月(2年間):5割控除
・2030年10月〜2031年9月(1年間):3割控除
・2031年10月以降:控除不可
当初は2026年10月から一気に5割控除へ引き下げ、3年間で終了する予定でしたが、実務への影響を考慮し、控除割合は、次のようなステップで縮小されていきます。
8割 → 7割 → 5割 → 3割 → 0と、より緩やかな段階的縮小へと変更されています。
これは、インボイス制度本来の姿に近づけつつも、事業者の負担調整を図る「移行期間」として位置づけられています。
経過措置の対象とできる上限額の引き下げ
現行制度では一の免税事業者からの課税仕入れについて年間 10億円まで経過措置(8割控除など)の対象ですが、改正後は上限額を 1億円 に引き下げられます。
この改正は、単なる制度調整ではなく、租税回避への対応という明確な政策目的を持っています。
改正の背景にある租税回避スキーム
報道などによれば、今回の見直しの背景には、組織的な租税回避事例の存在がありました。
具体的には、グローバル企業傘下の日本法人が、国内にある同じグループの免税事業者からの仕入れで8割特例を使い、グループ全体の消費税負担を圧縮していた可能性が指摘されています。
中には、このスキームのために会社を設立しているだけでなく、回避された金額も数百億円規模という事例があったといわれています。
制度導入時に想定されていなかったこうした利用実態を踏まえ、「本来、中小事業者保護のための経過措置が、巨大企業の節税手段として使われている」という批判が高まり、上限額引き下げという強い措置が講じられることになりました。
2割特例(売り手側)
一方で、小規模事業者への配慮も引き続き行われています。
免税事業者が新たにインボイス登録を行った場合、納税額を売上税額の2割に軽減する「2割特例」は、当初2026年9月末で終了する予定でした。
しかし今回の改正により、「個人事業者に限り、納税割合を 3割 に変更した上で2028年分の申告まで2年間延長」されることとなりました。
法人は対象外となる点には注意が必要ですが、急激な税負担増を避けるための経過的な救済措置といえるでしょう。
実務への影響と今後の検討ポイント
今回の改正により、インボイス制度を巡る実務は次の局面を迎えます。
① 免税事業者との取引コストは年々上昇
・控除割合の縮小により、免税事業者との取引は実質的に
・課税事業者側の税負担増
・価格交渉や取引条件見直し
を避けられなくなります。
② インボイス登録の是非を再検討する時期へ
「様子見」で免税事業者のまま事業を継続してきた方にとっても、
・控除割合の縮小
・取引継続への影響
・2割特例(3割特例)の期限
を踏まえ、改めて中長期的な判断が求められます。
おわりに
インボイス制度は、単なる請求書の様式変更ではなく、事業者間取引の在り方そのものを変える制度です。
今回の改正は、制度導入時の激変緩和から本来の仕組みへの回帰という転換点を示すものといえるでしょう。
同時に、制度の隙間を利用した租税回避に対しては、今後も継続的な見直しが行われる可能性があります。
免税事業者・課税事業者を問わず、「いつまで経過措置を利用できるのか」を意識しながら、取引形態や事業構造を見直していくことが、これからの実務において重要になりそうです。