2026年は、嗜好品をめぐる税制において、いくつかの象徴的な改正が予定されています。
4月にはたばこ税の増税が予定される一方、10月からはビールにかかる酒税が引き下げられます。同じ嗜好品でありながら、一方は増税、もう一方は減税と、対応が分かれています。
たばこについては、健康被害との関係が長年にわたり指摘されてきました。受動喫煙の問題や医療費の増加といった観点から、価格を通じて消費を抑制する政策がとられてきたこと自体には、一定の合理性があるともいえます。
もっとも、今回のたばこ税増税は、健康政策だけで説明できるものではありません。たばこ税は、防衛力強化に伴う安定財源の一つとして位置づけられています。広く国民全体に負担を求める増税が難しい局面において、特定の消費に課税する税目が、結果として選ばれやすくなる事情もあるのでしょう。
国内市場の縮小が続く中で、愛煙家の立場からは、「また、たばこ税なのか」と受け止められる向きもありそうです。結果として、喫煙者という限られた層に負担が集中しやすい点は、否定できません。
一方、ビールを含む酒税の見直しは、やや性格を異にします。
近年、発泡酒や第3のビールといった、税率の低い酒類が次々と登場し、消費者の選択や市場構造は大きく変化しました。その結果、ビールだけが相対的に高い税負担を背負う形となり、酒類間の税率格差が拡大してきました。
酒税法改正の理由について、財務省は、類似する酒類間に存在する税率格差が、商品開発や販売数量に影響を与えている現状を問題視しています。そのうえで、こうした歪みを是正し、酒類間の税負担の公平性を回復する観点から、税収全体を増減させない「税収中立」を前提として改正を行うと説明しています。
2018年には酒税法が改正され、2026年10月までに段階的に酒税率を見直す仕組みが導入されました。今回の税率変更は、2023年に続く最終段階の改正にあたります。これにより、ビールの税率は引き下げられる一方、発泡酒や第3のビールの税率は引き上げられ、これまで三つに分かれていたビール系飲料の酒税は、1本(350ml)あたり54.25円に統一されます。
つまり、今回のビールの酒税引き下げは、健康への配慮を目的としたものではなく、酒類間に生じてきた税制上の歪みを是正し、税率を段階的に一本化していくための、制度調整色の強い改正だといえます。
その結果として、ビールの税負担が相対的に軽くなる構図です。発泡酒や第3のビールの登場によって市場構造が変化し、ビールの販売数量が長期的に減少してきた中で、ビールメーカーにとっては、一定の追い風となる可能性も考えられます。
もっとも、お酒をめぐる評価そのものも、近年大きく変わりつつあります。
かつては「百薬の長」と言われ、そう考えられていたなりの背景がありました。しかし最近では、少量であっても病気のリスクが高まるとする研究が相次ぎ、健康への影響については、より慎重な見方が広がっています。日々の晩酌を楽しみにしてきた人にとっては、なかなか受け止めにくい変化でもあるでしょう。
こうして見ていくと、健康リスクが指摘される嗜好品であるにもかかわらず、たばこは財源確保の文脈で増税され、ビールは制度調整の結果として減税されるという対比は、やはり印象的です。税制の目的が、健康なのか、財源なのか、あるいは市場や産業構造の調整なのかが、品目ごとに異なる形で表れているようにも見えます。
同じ嗜好品でありながら、片方は増税され、もう片方は減税される。
2026年の税制改正は、その是非よりもむしろ、税制が何を基準に判断されているのかを考えさせる材料を提供しているように思えます。