グローバルミニマム課税(最低法人税率15%)は、多国籍企業が税率の低い国・地域に利益を移転することで、実効税率を引き下げる行為に歯止めをかける制度として、2021年に経済協力開発機構(OECD)主導で国際合意に至りました。
本ブログでもこれまで、制度の背景や仕組み、日本企業への影響について整理してきましたが、当初から指摘されていたのが、「各国の課税主権」との緊張関係です。
国際的な合意とはいえ、最終的に税を課す主体はあくまで各国であり、特に経済力の大きい国がどのようなスタンスを取るのかは、制度の実効性を左右する重要な要素でした。
そうした中で、2026年に入り、このグローバルミニマム課税をめぐる枠組みに大きな修正が加えられることとなりました。
米国企業を「事実上、適用除外」とする新ルール
各種報道によれば、米財務省とOECDは1月5日、法人税の最低税率15%を定めた国際課税の枠組みから、米国に本拠を置く多国籍企業を例外扱いとする新ルールについて、145を超える国・地域が合意したと発表しました。
米国企業の「例外扱い」については、すでに昨年のG7で合意されており、大きな波紋を呼びました。
その内容が今回、OECD全体の枠組みに反映されたことにより、米国企業の海外子会社について、「十分に課税されていない」として他国・地域が追加課税(いわゆるトップアップ課税)を行うことは、事実上困難になるという整理になります。
形式上はグローバルミニマム課税の枠組み自体は維持されていますが、世界最大級の多国籍企業を多数抱える米国が、例外的な位置付けを得た点は、制度の実効性という観点から無視できない転換点といえそうです。
背景にある「課税主権」をめぐる攻防
この動きの背景には、海外政府が米国企業に対し、自国の制度を域外に及ぼして課税する仕組みは、「米国の課税主権を侵害する」という米国側の一貫した問題意識があります。
トランプ政権は発足当初から、バイデン前政権が合意した国際課税改革に否定的で、最低税率を導入した国に対する「報復税」(内国歳入法899条)の新設案まで打ち出していました。
今回の合意は、主要国側が国際課税改革の枠組み全体を維持するために、米国との妥協を選択した結果とも読み取れます。
「最後の網」ではなかったグローバル合意
グローバルミニマム課税は、しばしば「国際的な税逃れに対する最後の網」と表現されることがあります。
しかし、今回の経緯を見る限り、やはり国際課税の世界でも、
・各国の政治事情
・経済力の差
・課税主権をめぐる綱引き
から完全に自由な制度設計は難しい、という現実が改めて浮き彫りになったように思われます。
制度は導入されても、その適用範囲や実効性は、常に見直しと調整の対象となる。
グローバルミニマム課税も例外ではなく、今後も「完成形」からは程遠い状態で、修正を重ねながら運用されていく可能性が高いでしょう。
今後の視点
日本はすでに、グローバルミニマム課税を国内法に取り込み、制度対応を進めています。
今回の合意を受けて、
今後は、米国企業を含むグループと日本企業を中核とするグループとの間で制度上の非対称性がどのように現れるのか
といった点にも注意が必要になります。
国際課税は、もはや「理論」や「理念」だけでは語れず、政治・外交・経済安全保障と不可分の領域になっています。
グローバルミニマム課税をめぐる今回の例外合意は、その象徴的な出来事といえそうです。