2026年度税制改正大綱では、同族会社を巡る社債利子課税について、さらに踏み込んだ見直しが盛り込まれました。
これまでの改正を潜り抜ける形で利用されてきた社債スキームに対し、制度面から一定の歯止めをかける内容となっています。
租税回避と税制改正は本質的にイタチごっこの関係にありますが、本改正はその中でも、形式ではなく実質に着目する姿勢を、より明確に打ち出した点に特徴があります。
なぜ社債が問題視されてきたのか
役員報酬や同族会社に対する貸付金利子を受け取った場合、それらは総合課税の対象となり、累進税率により所得税・住民税を合わせて最大55%(復興特別所得税を除く)の税負担が生じます。
一方、社債の利子は、原則として利子所得として分離課税の対象とされ、税率は20%です。
所得税率が高い高所得者ほど、この差は大きな意味を持ちます。
この税率差を利用し、オーナー経営者等が
・給与として受け取る
・貸付金利子として受け取る
のではなく、
・社債の利子として受け取る
ことで、実質的な報酬を分離課税に付け替え、税負担を大幅に軽減するスキームが問題となってきました。
これまでの改正の経緯
こうした動きを受け、すでに段階的な手当ては行われてきました。
・2016年改正
同族会社が発行した社債について、同族会社の株主等が受け取る利子・償還金は総合課税の対象とする。
・2021年改正
同族会社との間に法人を介在させ、当該法人から社債利子・償還金を受け取る場合についても、総合課税の対象とする。
しかしその後も、
「同族会社ではなく、第三者法人同士が相互に社債を発行し合う」
といった形で、制度の網目を潜る事例が散見されるようになりました。
行為計算否認での対応には限界も
今年7月には、ファッション通販サイト創業者が類似スキームを用いたとして税務調査を受けたという報道が話題になりました。このケースでは、いわゆる「伝家の宝刀」とされる行為計算否認により課税処分が行われたとされています。
行為計算否認(法人税法132条)は、
「その法人の行為又は計算で、これを容認した場合に法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」があるときは、
税務署長が、その行為や計算にかかわらず、合理的な取引内容に基づいて課税標準や税額を計算できるとする規定です。
もっとも、行為計算否認は個別事案ごとの判断となり、納税者・課税庁双方にとって不確実性が高い側面もあります。
今回改正のポイント
そこで今回の2026年度税制改正では、次の点が明確化されました。
同族会社の役員等が、その同族会社以外の法人(特定法人)が発行した社債の利子で、実質的にその同族会社から支払を受けるものと認められる場合、当該利子および償還金を総合課税の対象とする。
ここでいう「実質的にその同族会社から支払を受けるもの」とは、
・同族会社が社債債務について保証している
・その他の契約関係や状況からみて、社債が不履行となっても、役員等が実質的な損失を被らない
と認められる場合を指します。
形式上は第三者法人が発行した社債であっても、リスクは同族会社が引き受け、利益だけを役員等が享受しているのであれば、それは分離課税を認めない、というメッセージです。
なお、この改正は、2026年4月1日以後に支払を受けるべき社債の利子および償還金から適用されます。
制度改正が示すもの
今回の改正は、「新たな抜け道」を個別に潰すというよりも、
・形式ではなく実質を見る
・リスクとリターンの帰属が一致しているか
という原点を、制度の文言レベルで明確にしたものと言えるでしょう。
行為計算否認に頼らずとも、社債という器を使った報酬の付け替えは認めない
という意思表示が、より強く示された改正です。
今後、オーナー経営者の資金設計やグループ内取引を検討する際には、「誰がリスクを負い、誰が利益を得ているのか」をこれまで以上に丁寧に検証する必要がありそうです。