12月19日に示された2026年度税制改正大綱は、物価高対策や投資促進といった従来の税制の役割を踏襲しつつ、過度な節税への歯止めを講じる内容となっています。
一方で、所得税を中心に減税色が強く、将来世代への負担をどのように抑制するのかという財源確保の視点に乏しい内容となっています。
また同日、日銀は政策金利を0.75%へ引き上げることを決定しました。これは約30年ぶりの水準であり、住宅ローンの金利や企業の借入金利、預金金利など、幅広い分野に影響が及ぶことになります。
もっとも、総務省が同日発表した11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比3.0%上昇と、3年半以上にわたって日銀が目標とする2%を上回って推移しています。このため、3%の物価上昇の影響を差し引いた実質金利は依然として大幅なマイナス(▲2.25%)であり、金融環境は緩和的な状態にあります。
緩和的な金融環境は景気の下支え効果を持つ一方で、円安の要因ともなり、物価高を助長している面があります。日銀は経済・物価動向を見極めながら、今後も段階的な利上げを続ける姿勢を示していますが、市場はしばらくは緩和環境が続くとみて、日銀の利上げ発表後も円安は止まらず、155円台から157円台へと円安が進みました。
金融政策が後手に回っているとの見方もある中で、家計支援や投資促進を税制に過度に依存することの是非を指摘する声もあります。
税制が映し出す「これからの社会」
今回の税制改正大綱からは、
・投資は促すが、過度な節税には歯止めをかける
・支援は行うが、対象は広げすぎない
・減税を優先する一方で、財源論は深掘りしない
といった、少数与党という政治状況と厳しい財政制約を反映した姿勢が読み取れます。
日銀が12月17日に発表した2025年7~9月期の資金循環統計(速報)によれば、家計の金融資産は2,286兆円と過去最高を更新し、現預金比率は18年ぶりに50%を下回りました。
「貯蓄から投資へ」という流れ自体は、統計上も確かに進みつつあります。
もっとも、それは必ずしも余裕のある選択というより、公助の拡充が難しい中で、自助努力を前提とせざるを得ない社会へ移行している側面も併せ持っている点には、注意が必要でしょう。
以下では、個人に関係する税制を中心に、改正大綱の主な内容を整理します。
主な改正内容(個人関連)
1.「年収の壁」を178万円へ【減税】
所得税の「年収の壁(非課税枠)」を引き上げ、中所得者層にも恩恵が及ぶようにすることで、物価高対策と位置づけられています。
基礎控除と給与所得控除の下限を合わせた非課税枠を
・160万円 → 178万円へ引き上げ
・対象を年収200万円以下から、年収665万円以下へ拡大
これにより、現在は低所得層に限られている実質的な非課税枠の対象が大幅に広がり、納税者の約8割が影響を受けるとされています。
今回の改正により、年収600万円の場合で年間約3.6万円(2025年度改正分を含めると約5万6,000円)の減税効果が見込まれます。
また、直近2年間の消費者物価指数(CPI)の伸びに連動させ、2年に1回のペースで基礎控除と給与所得控除を引き上げる仕組みも導入されます。24~25年のCPI上昇率は約6%であり、計8万円の引き上げに相当します。
もっとも、今回の壁の引き上げは所得税のみが対象であり、財務省はその減収規模を年間約6,500億円と試算しています。人手不足の一因とされる「働き控え」の解消という観点では、所得税よりも社会保険料における年収の壁への対応が不可欠である点は、引き続き課題として残ります。
この改正は2026年分以後の所得税について適用されますが、源泉徴収は2027年1月1日以後に支払われる給与から適用されます。
2.高校生扶養控除の維持【減税】
高校生らの親に対する扶養控除については、廃止せず存続する方針とされました。
児童手当の対象の拡充や高校授業料の無償化などに伴い、所得税の控除額を38万円から25万円に引き下げる案は、2026年度改正でも見送られています。
3. 住宅ローン減税の延長・拡充【減税】
住宅価格の高騰を背景に、中古住宅への支援が手厚くされます。
・2030年末まで5年間延長
・中古住宅の控除期間を最大13年に延長
・借入金上限:3,000万円→3,500万円(子育て世代などは4,500万円)
・対象床面積:50㎡以上から40㎡以上
・居住年が2026年から2030年までに適用されます。
4.食事代補助の非課税枠の引き上げ【減税】
企業が従業員に提供する食事代の非課税制度について、物価上昇をふまえ1カ月あたりの限度額が引き上げられます。
・3,500円 → 7,500円へ(約40年ぶり)
深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭についても1食あたりの限度額が引き上げられます。
・300円 → 650円へ(約40年ぶり)
いずれも2026年4月以降の所得税に適用される予定です。
5.マイカー通勤の非課税措置【減税】
長距離通勤者に配慮し、通勤距離の区分が見直され、現在よりも長い距離区分が新たに設けられます。
・非課税限度額を段階的に引き上げ、通勤距離95キロ以上の場合、月額66,400円が上限
・駐車場代(上限5,000円)も非課税対象に追加
・2026年4月以降の所得税から適用される予定です。
6.NISA制度の拡充【減税】
・2027年から18歳未満へとNISAが解禁されます。
・積み立て投資枠の対象を0歳まで拡充
・年間投資枠:60万円
・生涯投資枠:600万円
・積立分は12歳以上にならないと引き出せない
実質的には、親や祖父母が資金を拠出するケースが想定され、成人時点で一定の金融資産を保有する人が現れる可能性があります。一方で、資産形成における格差を早期に固定化しかねないとの指摘もあり、評価は分かれています。
また、NISAの積立投資枠について、債券比率が50%を超える投資信託も対象に加え、リスクの低い投資信託を選択肢に加えることで、世代やリスク許容度に応じた柔軟な資産形成を可能にする狙いがあります。
7.暗号資産課税の見直し【減税】
暗号資産を金融商品取引法(金商法)の対象とする方向で調整が進められており、
・インサイダー取引規制の導入
・取引業者に対する利用者保護の強化
・改正は金商法の改正を前提に2028年からの開始を見込む
など、制度面での信頼性向上が見込まれています。
税制面では、現在の総合課税(住民税を含め最大55%)から、株式などと同様の申告分離課税(約20%)へ移行する方向が示されました。
税負担の大幅な軽減により、個人投資家の参入促進と市場の健全化・活性化が期待されます。
8.防衛力強化に向けた所得税【増税】
防衛力強化の財源確保に向けた所得税の増税について、開始時期を2027年1月とすることが決まりました。
復興特別所得税の税率1%を防衛財源に振り替えることで、単年度で見た税負担が急増しない形はすでに決定済みでしたが、実施時期はこれまで先送りされてきました。
なお、復興特別所得税は、復興事業に影響を与えないよう、課税期間を2047年まで10年間延長されます。
9.富裕層課税の強化【増税】
2025年から導入された、いわゆる「ミニマム課税」について、さらなる強化が示されました。
・非課税枠を3億3,000万円 → 1億6,500万円へ縮小
・最低負担率を22.5% → 30%へ引き上げ
・2027年分の所得から適用予定
これにより、追加負担の対象となる年間所得の目安は、約30億円から約6億円へと引き下げられます。
現在300人程度とされる課税対象者は2,000人程度に広がり、年間3,000億円程度の増収が見込まれています。
いわゆる「1億円の壁」の問題を踏まえ、名目税率の引き上げというより、一定以上の所得には最低限の負担を求める姿勢がより明確になります。
10.ふるさと納税の見直し【増税】
住民税の寄附金控除に関し、ふるさと納税向け特例の上限を193万円とします。単身・給与所得のみの場合、年収1億円超で制限がかかる仕組みとなり、2027年の寄附分から適用される予定です。
高所得者ほど恩恵が大きいとの指摘を踏まえ、制度の趣旨である「寄附」に立ち返る見直しといえます。
11.国際観光旅客税(出国税)の引き上げ【増税】
現行の出国1回につき、1,000円から3,000円へ引き上げられます。
訪日外国人観光客の増加に伴うオーバーツーリズム(観光公害)対策などの財源確保を目的として、2026年7月から開始される予定です。
12.財産評価方法の見直し【増税】
貸付用不動産の市場価格と評価額との乖離の実態を踏まえ、次の見直しが行われます。
2027年1月1日以降の相続等により取得する財産評価に適用される予定です。
賃貸不動産
・購入から5年以内の相続に適用
・路線価ではなく購入価格を基準に評価(地価変動などを考慮し評価)
相続直前の賃貸マンションやオフィスビルなどの不動産購入による過度な相続税圧縮は難しくなる見通しです。
不動産小口化商品
・購入時期を問わず
・購入価格を基準に評価(商品の取引事例などを基に評価)
贈与時を含めた節税目的での貸付用不動産の小口化商品の利用に歯止めをかける方向です。
13.教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
・2026年3月31日をもって延長されず、制度は終了予定。
14.自動車関連税制
・自動車購入時に課される環境性能割を廃止
・年1,900億円程度に上る地方税の減収分は、安定財源が確保されるまで国が補填
・一方で、電気自動車(EV)については、車両重量に応じた新たな税負担を導入
・2028年5月以降、車検時の自動車重量税に上乗せ予定
とされ、税負担の在り方が見直されます。
まとめ
2026年度税制改正大綱を俯瞰すると、家計への配慮や投資促進を通じて当面の負担感を和らげる一方で、その裏側にある財政制約や将来世代への影響については、踏み込んだ議論が先送りされた印象は否めません。
22日の債券市場では長期金利が一時2.1%台と27年ぶりの水準に上昇し、日銀が利上げに動く中で、市場では拡張的な財政運営に対する警戒感も意識され始めています。今後、さらに金利が上昇していけば、国債費が政府予算を圧迫し、物価上昇に伴う自然増収を前提とした拡張的な予算は組みにくくなることも懸念されます。
その意味で、減税と支援を積み重ねる一方で、財政の持続可能性をどう確保するのかという議論は、今後避けて通れない課題といえそうです。