12月11日に国税庁が公表した2024事務年度(2025年6月まで)の所得税・消費税の調査等の状況によると、税務調査の実施件数や追徴税額は依然として高水準で推移しています。
特に近年は、AIや各種データ分析を活用した調査対象者の選定が進み、調査の進め方そのものが変化しつつあります。
調査全体の概況
こうした調査の背景には、過去の調査データや申告内容、各種資料情報などをAIにより分析し、異常値や申告漏れの可能性が高い事案を抽出する仕組みの整備があります。
特に、「簡易な接触」と呼ばれる手法―原則として納税者宅等に臨場することなく、文書や電話による連絡、あるいは来署依頼による面接を通じて申告内容を是正するもの―の増加が顕著です。
その結果、「実地調査」と「簡易な接触」を合わせた調査等件数は、
・所得税:73万6千件(前年度比1.2倍)
・消費税:18万5千件(前年度比1.5倍)
と、大幅な増加となりました。
所得税の申告漏れ所得金額の合計は9,317億円、追徴税額(加算税含む)は過去最高の1,431億円、消費税の追徴税額(加算税含む)は421億円と高水準となりました。
富裕層・海外投資関連の調査が顕著に増加
国税庁の「トピックス(主な取組)」によれば、富裕層・海外投資家に対する調査が積極的に実施されています。
・富裕層調査の追徴税額は、1件当たり 855万円 と実地調査全体比2.9倍と大きく上回る。
・海外投資を行っている個人に対する追徴税額は、1件当たり 1,595万円 と極めて高額。
背景には、国際的な情報交換制度(租税条約、CRS等)や国外送金等調書の活用があります。この傾向は、資産運用の多様化・国際化に対応し、適切な課税を行う必要性が高まっていることを示しています。
新しい分野の経済活動にも対応
ネット通販、シェアリングビジネス、デジタルコンテンツ、暗号資産等といった新分野の経済活動も調査対象として注目されています。これらの分野にも資料収集・AI分析等を通じて調査・把握を進めています。
・暗号資産取引を行う個人の1件当たり追徴税額は 745万円(実地調査全体比2.5倍)。
・シェアリングエコノミー関連の事案も積極的に調査。
無申告対応の強化
納税者の自主的な申告納税制度を支える観点から、無申告者に対する対応も強化されています。厳格な対応により、適正な申告・納税の確保が図られると同時に、自主申告者との公平性が重視されています。
・所得税無申告者の実地調査における1件当たり追徴税額は524万円(過去最高)。
・消費税無申告者の1件当たり追徴税額は 296万円 と過去最高。
公表された調査事例(無申告)
・複数のキャバクラ店を従業員名義で営業すれば自身が経営者であることを隠蔽できると考え、申告していなかった。
・金地金の売却代金について親族名義の銀行口座に振り込むなどして自身の口座残高を減らすことで、 税務署には分からないと考え、 関与税理士にも秘匿し、申告していなかった。
不正還付申告への対応
不正還付は、国庫金の詐取にもなり得る悪質性の高い行為であるため、還付申告書に対しては特に厳格な審査を行うとともに、不正還付が疑われる申告書に対しては調査を実施しています。
特に所得税や消費税の不正還付に厳格に対応すべく、悪質な不正還付申告書の提出が確認され、詐欺罪等に該当すると判断した場合には、刑事上の責任追及の要否を検討した上で告訴等を行うなど、捜査当局との連携強化にも取り組んでいます。
公表された調査事例(不正還付)
・架空の事業収入及び源泉徴収税額などを記載した還付申告書等を提出し、所得税の還付金を受け取ったことを把握したため、詐欺罪に該当するとして告訴を行い、その後、捜査当局により逮捕された
申告漏れが高額な業種
事業所得の1件当たりの申告漏れ所得が高額な業種は、1位がキャバクラ、2位が眼科医と続き、3年連続1位だった経営コンサルタントは4位でした。2位の眼科医は意外な感じもしますが、上位にランクされる業種は世相を反映すると言われており、足元の経済環境や業界動向が影響している可能性もありそうです。
まとめ
・ 調査件数・追徴税額は過去最高水準
・ AI活用により的確な選定が進展
・ 富裕層・海外投資家への調査強化
・ 新分野の経済活動(※)への対応拡大
・ 無申告者への厳格な対応
・ 還付申告書に対する厳格な審査
(※) 暗号資産、ネット取引、シェアリングエコノミー等
税務リスクを適切に把握し、不要なトラブルを避けるためにも、日頃からの適正な申告、資料の保存、情報管理の重要性は、これまで以上に高まっているといえるでしょう。
