経済取引のグローバル化が進展する中で、国境を越える取引が恒常的に行われ、資産の保有・運用の形態も国際化・複雑化・多様化しています。
こうした中、国税庁は納税者の海外資産に関する情報を、多様なルートを通じて把握できる体制を整えています。近年は特に情報交換体制の強化により、これまで“見えにくかった”資産も税務当局の目に触れやすくなってきました。
海外資産を保有する際には、国税庁の情報入手経路や関連制度の仕組みを理解し、適切な対応策を講じておくことが重要です。
財産債務調書の提出義務
・所得が2,000万円を超える方で、かつ保有資産が3億円以上(または有価証券1億円以上)ある場合や、保有資産が10億円以上ある場合には財産債務調書の提出義務があります。
・財産の評価基準は毎年12月31日時点での価額です。
・後述の国外財産調書とは別に、資産の内訳や債務を詳細に報告しなければならないため、複数の資産がある場合には複雑化します。
・国外財産調書の提出義務者が財産債務調書の提出基準も満たす場合、財産債務調書もあわせて提出する必要がありますが、この場合、国外財産の価額以外の記載は不要となります。
・国外の債務は国外財産調書の対象外であるため、財産債務調書にその詳細を記載する必要があります。
・財産債務調書の提出の有無によって、申告漏れが把握された場合の過少申告加算税等の軽減・加重措置が講じられています。
国外財産調書の提出義務と罰則
・海外資産を5,000万円超保有している場合、国外財産調書の提出義務があります。
・基準は毎年12月31日時点での財産の価額で判断します。
・今年1月の国税庁発表によると、2023年分の国外財産調書の提出件数は13,243件、財産総額は6兆4,897億円で、いずれも前年比で増加しています。
・財産債務調書と同様、国外財産調書の提出の有無によって、申告漏れが把握された場合の過少申告加算税等の軽減・加重措置が講じられています。
・さらに、国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合または国外財産調書を正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることがあります。
国外送金等調書の提出義務
・外国に100万円を超える送金や、外国から100万円を超える受け取りがあった場合には、国外送金等調書が銀行など金融機関から税務署に提出されます。
・これにより、海外との資金のやり取りが税務当局に把握されますので、国外送金等調書をもとに、税務署から『国外送金等に関するお尋ね』が送付され、確定申告の有無や取引内容の確認、書類の提出を求められる場合があります。
CRS(共通報告基準)等の情報交換
・各国間での金融口座情報の自動交換(CRS)が進んでおり、日本の税務当局もこれを受領しています。従来は把握しづらかった海外口座情報も、相手国から自動的に報告される仕組みになっています。
・例えば、2023年度のCRS受領件数は約246万件、口座残高は14.2兆円に達しました。前年比ではやや減少したものの、長期的には増加傾向が続いています。
・また、租税条約等に基づく自動的情報交換では、多国籍企業グループの国ごとの活動状況を示す国別報告書(CbCR)や、非居住者への支払に関する法定調書情報なども定期的に交換されています。
・国際調査協力(自発的情報交換、要請に基づく情報交換等)も積極的に実施されており、海外資産の透明性が一層高まっています。
暗号資産(仮想通貨)等報告枠組み(CARF)の整備
・暗号資産を利用した脱税等のリスクが顕在化したことを受け、非居住者に係る暗号資産取引情報を税務当局間で自動的に交換するための報告制度が導入されました。
・この制度は「暗号資産等報告枠組み(CARF:Crypto-Asset Reporting Framework)」と呼ばれ、自動的情報交換の対象となる非居住者の暗号資産取引の特定方法や報告項目を各国で共通化する国際基準です。
・これにより、暗号資産取引情報を税務当局間で効率的に交換し、国外での暗号資産取引を通じた国際的な脱税や租税回避への対応が強化されることになります。
・2024年度税制改正により、2026年から暗号資産交換業者等による対象取引の特定手続が実施され、2027年には2026年分の取引情報が各国税務当局間で自動的に交換される予定です。
海外所得に対する申告義務
・海外で得た所得も日本では課税対象となります。これは、日本が全世界所得課税方式を採用しているためで、日本に住んでいる限り(居住者のうち非永住者以外)、国内外で得た全ての所得を申告する義務があります。
・これには、海外の不動産所得や配当、利子所得等のほか、タックスヘイブンにおける子会社が稼得した所得(外国子会社合算税制)も含まれます。
・国際的な二重課税を回避するために外国税額控除制度が利用可能です。
・贈与税や相続税でも同様に外国税額控除ができます。申告漏れがあれば、加算税や延滞税を含めた追徴課税の可能性が高まります。
・なお、居住者とは、日本国内に住所を有している方又は現在まで引き続いて1年以上居所を有している方をいいます。
・非永住者とは、居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下の方をいいます。
まとめ
租税の賦課徴収を確実に行うためには、国内だけでなく国外にある情報を適切に把握することが重要です。しかし、国外の情報は外国の主権(執行管轄権)によって制約を受けるため、日本を含む各国・地域の税務当局は、租税条約等に基づき相互に情報を提供する仕組み(情報交換)を設け、国際的な脱税や租税回避に対処しています。
日本は2025年9月1日現在、88の租税条約等を締結し、156か国・地域に適用されています。
海外資産に対する税務当局の監視体制は年々厳格化しています。海外資産を適切に管理するためには、定期的な評価や書類の保管が欠かせません。これらの税務リスクや義務を的確に把握し、適切に対応することで、海外資産に関するリスクを未然に防ぎ、安心して資産運用を行うことができます。