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相続人がいなくても大丈夫!? 遺贈でつなぐ財産の活かし方

「自分には子どもも親族もいないけれど、財産はどうなるのだろう?」

近年、少子高齢化や未婚率の上昇を背景に、相続人がいないケースが急増しています。その結果、せっかく築いた財産が誰にも引き継がれず、国庫に帰属してしまう事例が増えているのです。日本総合研究所の『リサーチ・アイ』(No.2025-090)によれば、2024年に相続人不存在により国庫に帰属した金銭等は1,349億円に達しました。これは10年前の約3倍にあたり、とりわけ近年は毎年3割増のペースで増加しています。

 

配偶者や子供のいない単身高齢者は今後もさらに増えると見込まれています。法定相続人がいない場合や相続人が相続を放棄した場合、遺産は国に帰属することになります。

しかし、相続人がいなくても、あらかじめ遺言書を作成し、信頼できる個人や団体に「遺贈」という形で託すことで、次世代や社会に役立てる道が開けます。

 

生前贈与とよく見落とされる点

相続対策として「生前贈与」がありますが、課税方式によって扱いが異なります。注意点はいくつかありますが、よく見落とされる点は、相続税の計算において贈与税の還付が受けられるかどうかです。

 

・暦年贈与 → 還付されない

・相続時精算課税 → 還付される(申告が必要)

 

つまり、暦年贈与で納めた贈与税は、相続税が発生しなくても戻らない点に注意が必要です。

 

遺産の考え方の変化

一方で、相続人の有無にかかわらず「子供に多額の遺産を残さない」という考え方も広がっています。

多額の遺産はかえって子供たちの情熱や意欲を削ぐという懸念や、「資産は自分が生きているうちに使う」という価値観が背景にあります。

 

実際、金融広報中央委員会の調査では、高齢者の遺産に関する考え方として「財産を使い切りたい」と回答した人が約3割で最も多かったとの結果も出ています。

日本でもベストセラーとなったビル・パーキンス著『DIE WITH ZERO』は、人生において大切なのは富の最大化ではなく経験の最大化であると説きます。老後の備えを確保したうえで、最期には資産をゼロに近づけるほど経験に投じることで、より豊かな人生を送ろうという考え方です。

 

遺贈や寄附という選択肢

相続人がいない場合や、社会貢献を志す方にとって有効なのが「遺贈」です。

遺言書を作成することで、法定相続人以外の特定の個人や団体に財産を譲り渡せます。公益法人やNPO、教育機関などに寄附することで、自らの思いや価値観に沿った形で財産を社会に生かせるのです。

 

遺贈には税務上の特例もあります。

 

・公益法人や国・地方公共団体への遺贈は相続税の対象外

・含み益のある財産を遺贈した場合、準確定申告が必要になるケースがある

・相続人が故人の遺志を引き継いで寄附した場合、その寄附財産は相続税の対象外となる特例がある(期限内の申告・明細書の添付が条件)

 

なお、遺留分のある相続人がいる場合は注意が必要です。

 

人生100年時代に向けて

高齢化の進展とともに、金融資産が高齢者層に偏在しているのは「長生きリスク」への不安や、高齢者間での資産移転(相続)が背景にあります。

遺産相続は、人生の最期に自分の財産をどのように扱うかという重要な問題です。

 

・子供や親族に残すのか

・社会に役立てるのか

・あるいは自分の経験に使い切るのか

 

ご自身のライフプランや価値観に合った選択肢を、早めに検討してみてはいかがでしょうか。専門家に相談することで、より安心して判断できます。