取引先(発注事業者)から代金が振り込まれる際に、振込手数料が差し引かれているケースがあります。これが商慣行となっている業界も少なくありません。もっとも、振込手数料も「ちりも積もれば山」となるもので、取引金額や頻度によっては中小企業の収益に少なからぬ影響を及ぼします。
公取委による運用基準の改定へ
公正取引委員会は2026年1月施行の改正下請法にあわせて運用基準を見直し、合意の有無にかかわらず、振込手数料を下請事業者に負担させる行為を違反と整理する見込みです。
なお、振込手数料を下請事業者が負担する扱いについては、インボイス制度導入時にも「売上値引き等とみなすのか」といった議論がありましたが、今回の法改正によりより明確に整理されることになります。
改正下請法の概要
改正下請法(正式名称:中小受託取引適正化法)は2025年5月16日に成立し、2026年1月1日から施行されます。
これにより、発注事業者は振込手数料を一律で自ら負担することが義務づけられ、下請代金からの控除は「不当な減額」とみなされることになります。現行の「書面合意があれば許容される」という取扱いは改められる方向です。
改正の背景
今回の改正の背景には、企業取引研究会の報告書があります。同報告書では、次のように整理されています。
・民法では、弁済費用は債務者(発注者)が負担するのが原則とされている
・従来の下請法運用基準では、「書面で合意がないまま振込手数料を下請事業者に負担させる行為」は減額に当たるとされてきた
・今後は、合意の有無にかかわらず、振込手数料を下請事業者に負担させる行為を違反と明確化し、運用基準に明示するべき
・振込手数料に限らず、ファクタリング等の決済手数料についても同様の取扱いとすることが適切
このように、「誰が費用を負担すべきか」という原則に立ち返り、慣行を是正する形で改正が進められています。
実務への影響と対応
施行まで時間はありますが、取引契約や実務の運用について、今後の対応を検討しておく必要があります。特に、本改正には振込手数料だけでなく手形支払いに関する取扱いの変更も含まれていますので、あわせて留意が必要です。
まとめ
改正下請法により、振込手数料の負担については「発注事業者が一律で負担する」という明確なルールが定められます。これまで業界慣行として続いてきた取扱いも見直しが迫られることになります。
施行は2026年1月ですが、取引先との契約や実務フローの点検は早めに進めておくことが重要です。今回の改正をきっかけに、自社の取引慣行を整理し直す良い機会といえるでしょう。