日銀が9月18日に公表した2025年4〜6月期の資金循環統計(速報)によれば、6月末時点で家計の金融資産残高は 2239兆円 に達し、前年同期比1%増の過去最高を更新しました。
株価の堅調さに加え、新しい少額投資非課税制度(新NISA)の浸透が、投資信託を中心に資金流入を後押ししています。金融庁の「NISA口座の利用状況調査」によれば、NISAの買付額は2025年3月末時点で累計59兆円に達し、政府目標の2027年12月末までの56兆円をすでに上回りました。口座数も2025年3月末時点で2647万口座に増加し、2027年目標(3400万口座)に近づきつつあります。さらに、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者数も7月末時点で370万人を超え、2027年1月から掛け金の上限引き上げが予定されるなど、制度拡充を背景に個人投資の裾野は広がっています。
預金は18年半ぶりの減少
一方で、現金・預金残高は 1126兆円 とわずかに減少。伸び率がマイナスに転じたのは2006年以来18年半ぶりです。キャッシュレス決済の普及や、資金をより有利に活用しようとする動きが広がり、投資信託や国債などにシフトしていることがうかがえます。
長らく「貯蓄好き」と言われてきた日本の家計にも、資産運用への関心の高まりが見えてきました。
「守る」から「増やす」へ
これまで日本の家計金融資産は現金・預金に偏っていましたが、超低金利の長期化を受けて「守る」だけでは資産が目減りするとの意識が広がっています。インフレ傾向もあり、投資信託や株式といったリスク資産を通じて「増やす」ことに目を向ける動きが強まっています。
もっとも、投資は必ずしも右肩上がりではありません。周囲に遅れまいと、リスクを十分理解しないまま投資すると、思わぬ損失につながることがあります。金融資産残高が過去最高を記録した今だからこそ、「どの資産に、どの程度分散するか」といった基本がより重要になっています。
投資拡大と隣り合わせのリスク
資産を「増やす」動きが広がる一方で、投資詐欺や不透明な商品の被害も増えています。特に「新制度で必ず儲かる」といった誇大広告や、「元本保証で高利回り」といった甘い勧誘には注意が必要です。さらに、偽メールなどによるID・パスワードの詐取も急増し、インターネットバンキングからの不正送金被害額は過去最悪のペースで推移しています。金融資産が膨らんだ今は、詐欺グループにとっても格好の標的になりやすい状況です。
鍵となる金融リテラシー
こうした環境で欠かせないのが 金融リテラシー です。例えば、次のような点が挙げられます。
・投資に「絶対安全」は存在しないことを理解する
・商品の仕組みを自分で理解できない場合は手を出さない
・「元本保証で高利回り」といった勧誘を鵜呑みにしない
・分散投資と長期投資を基本に据える
金融リテラシーとは、経済的に自立し、より良い生活を送るために必要なお金に関する知識や判断力のことです。これがあってこそ、資産形成を安心して進めることができます。金融リテラシー教育は若い世代に限らず、老後資金を考える世代にとっても、自分や家族を守り、より良い生活を送るために不可欠なスキルといえるでしょう。
まとめ
家計の金融資産は過去最高を記録しましたが、その中身を見れば、日本人の資産選好が「預金中心」から「投資と分散」へと少しずつ変わりつつあることが分かります。家計の資産形成は、いま大きな転換点を迎えているのかもしれません。
ただし、この流れに安心して乗るためには、「増やす」ことと同時に「どう判断し、どう守るか」を意識する必要があります。そのためにも、一人ひとりの金融リテラシー が、これからの時代を生き抜く大きな武器となるでしょう。