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仕事の合間の一杯とコーヒー事情

仕事の合間に飲むコーヒーは、私にとって欠かせない楽しみのひとつです。数年前にコーヒーミルを買い、さらに3年ほど前には家庭用の焙煎機も導入しました。最近は世界的にコーヒー豆の価格が上がっていて、市販品も高くなっています。その意味では「自分で焙煎するのはリーズナブル」と言いたいところですが……実際には焙煎機の初期投資がそれなりに高いので、長く続けることでやっとコスト面でもプラスになる、というのが正直なところです。

 

最初は好みの酸味を出すために時間や温度を変えて試行錯誤しましたが、今では焙煎具合の傾向がつかめてきて、焙煎機に任せていても大きな失敗はありません。私は酸味のある風味が好きなので、浅煎りに仕上げることが多いですね。

 

ハンドドリップの「雪崩効果」

コーヒーはドリップの仕方でも味が驚くほど変わります。これまで「少しずつ丁寧に注ぐ」のが良いとされてきましたが、最近の研究ではちょっと違った方法も注目されています。

 

米ペンシルベニア大学の研究チームが発表した論文によると、約30cmの高さから安定した水流を保って注ぐと、粉の層が崩れて活発に動き、お湯との接触が増える「雪崩効果」が起こるそうです。

 

ポイントは、ある程度の高さからお湯を注ぐことで水流に十分な運動量が生まれ、それがコーヒー粉を撹拌することです。

 

・太めの安定した層流を高い位置から注ぐと、粉がよく動き、濃厚な味を引き出せる。

 

・細めの層流でゆっくり注ぐと、抽出時間が長くなり、少ない豆でも十分に風味を維持できる。

 

つまり、グースネックタイプのコーヒーポットを高めに構え、水流を細くして安定した流れを保ちながら注ぐことで、豆の量を減らしても満足感のある一杯を淹れられるのです。ただし注ぐ高さが高すぎると湯線が途切れて逆効果になるため、あくまで安定した流れを保つことがポイントです。

 

実際に試してみましたが、納得感があり、日常のコーヒーにすぐ応用できるのが面白いところですね。

 

世界のコーヒー事情と価格高騰

こうした工夫が役立つのは、コーヒー事情が厳しくなっているからでもあります。総務省が8月22日に発表した7月の消費者物価指数(CPI)によると、生鮮食品を除く総合は前年同月比3.1%上昇し、食料は8.3%の上昇でした。特にコーヒー豆はブラジルでの天候不順もあり44.4%の上昇と厳しい状況です。

 

米国は世界最大のコーヒー消費国であり、その3分の1はブラジル産ですが、不作に加え50%の米国関税による混乱を受けて、ニューヨーク先物市場でもアラビカ種の価格が急騰し、8月20日には3.60ドル台を超える値上がりを続け、6月9日以来の水準に達しました。

 

コーヒーベルトと「2050年問題」

さらに長期的には「2050年問題」も深刻です。気候変動の影響で、コーヒー豆の主要品種であるアラビカ種の栽培適地が現在の半分に減る可能性が指摘されています。

 

コーヒー豆は「コーヒーベルト」と呼ばれる北緯25度から南緯25度の熱帯・亜熱帯地域で栽培されます。この限られた地域の中でも、昼夜の寒暖差が大きい高地がアラビカ種の適地とされ、香り高い豆が育ちます。しかし病害虫や気温変化に弱い性質があるため、今後はより標高の高い限られた地域に栽培が集中し、生産量減少と価格上昇のリスクが年々高まっているのです。

 

工夫で楽しむ一杯

それでも、日々の一杯を楽しむ工夫はあります。自分で焙煎を工夫したり、ハンドドリップのちょっとした物理学的知見を取り入れたりすれば、少ない豆でも満足感のある味わいが楽しめるのです。

 

……そう考えると、自家焙煎やハンドドリップには「ただ飲む」以上の奥深さがあるのかもしれません。