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iDeCo拠出限度額が大幅拡充へ、老後資金づくりにどう活かす?

日本経済新聞の報道によると、厚生労働省は2027年1月の引き落とし分から、個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出限度額を引き上げる方針を固めました。

老後資金づくりを後押しするための制度拡充ですが、公的年金の先行き不安や高齢者の就労増加といった背景があり、私たち一人ひとりにとっても重要な動きといえます。

 

どこが変わる?主な改正ポイント

今回の改正では、iDeCoと企業型確定拠出年金(DC)の両方に関わるルールが大きく見直されます。

 

・企業年金に加入する会社員

現行:イデコ上限は月2万円、合計で月5万5000円まで

改正後:合計で月6万2000円までに拡大、イデコの月2万円制限は撤廃

 

・企業年金のない会社員

現行:月2万3000円まで

改正後:月6万2000円まで

 

・自営業者など第1号被保険者

現行:国民年金基金との合計で月6万8000円まで

改正後:月7万5000円まで

 

さらに、加入可能年齢は「70歳未満」に引き上げられます。長く働き続ける人が増えている現状を踏まえ、働きながら資産形成を続けられる仕組みになります。

 

背景にある現実

1. 高齢期の働き方の変化

総務省によれば、2024年の65歳以上の就業者は930万人と過去最多を更新しました。定年後も働くことが当たり前になりつつあり、資産形成の期間も延びています。

 

2. 公的年金の先行き不安

基礎年金については、給付水準が約30年後に3割下がる見通しが示されています。すでに高齢者世帯の4割以上が「年金収入のみ」で暮らしており、とくに基礎年金だけの自営業者には影響が大きくなります。

 

こうした中で、自助努力による資産形成の必要性がますます高まっています。

 

企業型DCの見直しも

1. マッチング拠出の制限撤廃(2026年度)

現在は、従業員が上乗せできる掛金は「会社の掛金以下」という制限がありますが、これがなくなります。

 

2. 簡易型DCの廃止

事務負担を軽くする目的で2018年に導入されたものの、実績がゼロに終わったため、通常の企業型DCに一本化されます。

 

制度改正をどう捉えるか

1. 金融リテラシーの必要性

拠出限度額の大幅な拡充はチャンスである一方、iDeCoは「自己責任でリスク・リターンを考慮しながらの運用」が前提です。金融商品を選び、長期にわたり資産を積み立てるには、基本的な投資知識と判断力が欠かせません。制度が広がるほど、金融リテラシーを高めることが一人ひとりに求められます。

 

2. 「自己責任社会」への傾斜

「公的年金だけでは足りないから、自助努力を」という流れはますます強まっています。今回の改正も、個人により多くの選択肢を与える一方で、老後資金の確保が個人責任に押し寄せる側面があります。

 

経済格差や雇用形態の違いにより、拠出できる金額や投資リスクを取れる余地も大きく異なります。その意味で、「制度を活用できる人」と「できない人」の分断が広がる懸念も否めません。

 

3. 制度設計の課題

公的年金の給付水準は将来的に低下すると見込まれる一方、基礎年金の底上げの検討は5年後に先送りされました。今回の拡充は「自助」を促す一歩ですが、社会保障全体の持続可能性をどう設計するかという根本課題は残されたままです。

 

制度利用者の格差や、高齢期に十分な資産を持てない層への支援をどう組み込むのかが、今後の大きな論点となるでしょう。

 

老後資金づくりにどう向き合うか

今回の制度改正は、拠出できる上限が大きく広がるという意味で大きなチャンスです。とくに会社員にとっては、これまで制限の多かったiDeCo活用の幅がぐっと広がります。

 

ただし、iDeCoは原則60歳まで引き出せない資金です。老後資金の中核としては有効ですが、積立額を増やす前に生活防衛資金を確保し、緊急予備資金とは切り分けて考える必要があります。掛け金上限が拡大しても、フル活用が必ずしも正解ではありません。

 

ライフステージごとに家計に無理のない範囲で、NISAと組み合わせながら積立を“生活の習慣”にしていくことが大切です。NISAは途中で引き出せる柔軟さがある一方、iDeCoは老後資金専用です。使う目的に応じて組み合わせるのがポイントです。

 

「長く働きながら資産形成を続ける」という流れは今後ますます強まります。制度改正をきっかけに、自分のライフプランと照らし合わせながら老後資金戦略を組み立てていく行動を始めるタイミングではないでしょうか。