3年以上にわたる物価高で、暮らしの負担感は一層強まっています。こうした状況を受け、7月の参院選挙でも「減税」や「給付金」が注目されましたが、その財源をどう確保するかが課題です。いま、与野党の議論に浮上してきたのが「法人税の増税」です。
国と地方を合わせた法人実効税率は、2012年度の37%から29.74%にまで引き下げられてきました。ただ、日本の法人実効税率はOECD加盟国の中でもまだ高めの水準にあり、今後は法人の収益規模に応じて税率を高める「累進課税」の導入も検討されているといわれます。
大企業の内部留保と税制の見直し
財務省が昨年9月に公表した法人企業統計によれば、企業の利益から税金や配当を差し引いた「内部留保(利益剰余金)」は前年度比8.3%増となり、2023年度末に600兆円を突破して過去最高を更新しました。手元の現金・預金も2.3%増で300兆円の大台に達しています。
一方で、人件費は3.4%増の約221兆円と3年連続の増加となりましたが、内部留保の伸びと比べると控えめです。内部留保を積み増すこと自体は直ちに問題ではありませんが、人件費や配当を抑えることで実現されている面もあり、さらに増加分の資金が十分に設備投資に回らず、現預金として滞留している点が課題とされています。この傾向は大企業だけでなく中小企業でも見られます。
税制優遇の偏在と国際的潮流
現行の税制では、賃上げ促進税制や研究開発税制といった優遇措置の恩恵が大企業に集中しているとの批判があります。中小企業の約7割は赤字で法人税そのものを納めておらず、減税メリットを受けられません。そのため「恩恵の集中を是正し、よりメリハリのある制度に見直すべきだ」という声が強まっています。
一方、国際的には法人税率の引き下げ競争(いわゆる“底辺への競争”)が長く続いてきましたが、近年は流れが変わりつつあります。OECDが主導して法人税の最低税率を15%とする国際合意が成立するなど、各国は法人課税の強化へと舵を切り始めています。
もっとも、賃上げに積極的に取り組む企業には引き続き賃上げ促進税制を適用するなど、国全体で賃金引き上げを後押しする仕組みは維持する必要があるでしょう。
所得税増税は困難?
一方で、財源を個人の所得税増税に求めるのは現実的ではありません。物価高が家計を直撃している中で所得税の負担を増やせば、国民生活への影響が大きく、理解を得るのは難しいからです。結果的に、家計への直接的な負担増ではなく、そのため、消去法として余力のある大企業に応分の負担を求める方向にシフトしているように見えます。
最後に
法人税の引き上げは、企業の海外流出や競争力低下につながるのではないかという懸念もあります。税負担の増加が投資意欲を冷やし、経済活動に影響を与える可能性も否定できません。
それでも、必要な財源を確保しつつ、景気回復や国際競争力の維持を両立させなければならないのが現実です。企業にどのように負担を求めつつ、家計支援とバランスをとるのか。年末の税制改正大綱に向けて、法人税をめぐる議論は今後もしばらく注目を集めそうです。