総務省が7月18日発表した6月の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比3.3%上昇と、2013年1月以来の高水準だった5月の3.7%から伸びが縮小しました。
しかし、問題は、物価上昇が賃金上昇を上回り、実質賃金の減少が実際の消費抑制につながっている点です。
最近の世論調査でも一番の関心事項は物価高対策で、7月の参議院選挙でも給付金や消費税減税など、直接的な家計負担の圧縮策が大きな争点となりました。
8月7日の経済財政諮問会議でも、物価高対策をめぐり活発な議論が交わされました。サントリーホールディングス会長の新浪剛史議員はこう指摘します。
「日本のコアCPIは、インフレ目標である2%を39カ月連続で上回っており、G7諸国の中でも高い物価上昇率を示している。…国民のインフレ期待は相当進んでおり、即効性や抜本的対策の観点から、金融政策の方が優位ではないか。」
新浪氏は、長引く物価高を「一時的」とみる日銀の姿勢に懸念を示し、財政依存からの脱却と、徐々にでも金利を引き上げる方向性を提示しました。背景には、英国の「トラス・ショック」に象徴される、財政規律の緩みと通貨急落の危険性があります。
財政支援の効果と副作用
この3年間、ガソリン補助に始まり、電気・ガス代抑制、低所得者給付金、定額減税など、即効性を重視した財政支援が繰り返されてきました。
しかし、こうした施策は一時的な負担軽減にとどまり、物価上昇の基調を変える力は弱いのが現実です。
さらに、インフレ基調の経済下で需要だけ喚起しても、生産が追いつかない限り物価を押し上げるため、短期的な支援は、いずれ物価高として跳ね返ってくることが懸念されます。
加えて、所得制限を設けない一律の給付や減税は貯蓄に回る割合が高く、消費喚起効果は限定的です。所得の高い層ほど恩恵が大きくなるため、格差拡大の懸念も否めません。
こうした財政措置は国債発行や税収の上振れ分に依存していますが、税収の上振れ分は本来、巨額の財政赤字削減に回すべきです。
まして国債発行に至っては国債残高は増え続け、将来的な利払い費の膨張が避けられません。金利が上がれば、この負担はさらに増します。
金融政策への期待
財政政策に持続性と公平性の課題がある以上、物価安定の役割は金融政策に期待されます。現在、米国の政策金利は4.25~4.5%、物価上昇率(コアPCE)は2.7%(食品とエネルギーを除く個人消費支出)ですが、日本の物価上昇率は3.3%であるにもかかわらず、政策金利は0.5%にとどまります。
この日米金利差は為替や資本流出にも影響し、物価安定の観点からも無視できません。この結果、実質金利はマイナスという極めて緩和的な環境です。これは需要抑制よりも需要刺激の方向に働き、インフレ期待の定着を助長しかねません。
もちろん、金融政策の正常化は景気下振れや株価調整のリスクを伴います。昨年8月のような市場の急変を懸念する声もありますが、現状、日本株は最高値を更新し、米国との関税合意によって不確実性も徐々に低下しています。こうした環境下では、段階的な利上げに踏み出す余地が広がっています。
最後に
現在の日本経済は、景気の下支えよりもインフレ抑制を優先すべき局面にあります。短期的には的を絞った財政支援で低所得者層を守りつつ、中期的には金融政策によってインフレ期待を安定化させることが期待されます。
景気への影響を考えると容易な判断ではありませんが、財政依存から脱却し、生産性向上と民間投資を軸にした成長へと軌道を切り替えるためにも、政策の優先順位を見直す時期が来ていると言えるでしょう。
家計の現場では、政策の方向転換や金利動向はすぐに生活設計に影響します。物価上昇が長期化する局面では、
・生活費の見直し(特に保険料、通信費、サブスクなど固定費の削減)
・インフレに強い資産クラスの活用(預貯金の実質価値は物価上昇で目減り)
・住宅ローンなど借入金の金利条件の確認
の3点が重要です。
政策転換は一夜にして生活を変えるものではありませんが、「金利が動き出すサイン」を見逃さず、早めに行動することが将来の安心につながります。