止まらない人口減少
総務省の8月6日発表によれば、2025年1月1日時点の日本人は1億2065万3227人で、前年から90万8574人減少しました。減少は16年連続で、前年比の減少幅は1968年の調査開始以来、最大です。
死亡者数は159万9850人と過去最多、出生者数は68万7689人と最少であり、少子高齢化の進行に伴い、死亡数が出生数を大きく上回る「自然減」が加速しています。
少子化の流れが止まらない一方で、高齢化が進み「多死社会」と呼ばれる時代に突入しています。この人口構造の変化は社会保障制度や労働市場、地域経済に長期的かつ深刻な影響を及ぼすことが避けられません。
人口減少と賃金政策の接点
労働力人口の減少は人手不足を招き、企業は採用・維持のために賃金を引き上げざるを得なくなります。
一方で、制度上の壁や負担増が働き手を減らせば、人口減少と人手不足の悪循環が加速します。そのため、最低賃金の引き上げは単なる所得政策ではなく、人口動態と密接に結びついた課題でもあります。
最低賃金引き上げの波紋
こうした中、厚生労働省の中央最低賃金審議会は8月4日、2025年度の最低賃金の目安を全国平均で時給1118円とすることで決着しました。
引き上げ幅は過去最大の63円(6.0%増)で、目安通りに引き上げられれば、全都道府県で最低賃金が時給1000円を超える見通しです。
政府は2020年代に全国平均1500円を目指しており、その達成には今後も平均7.3%の上昇が必要です。
賃上げの明と暗
最低賃金の引き上げは、物価上昇に負けない賃金水準を確保し、働く人の生活を守るために不可欠です。
しかし、その影響は一様ではありません。最低賃金に近い時給で働く人は約700万人とされ、時給アップによって年収が106万円を超えると社会保険料の負担が発生します。これを避けるために就労時間を減らす「働き控え」が増える懸念もあります。
また、特に中小企業では人件費負担の増大が経営を圧迫し、生産性向上や価格転嫁が進まなければ、事業継続が困難になる恐れもあります。
社会保障制度と税制改革への視点
賃上げを生活向上につなげるためには、「働き控え」を生む制度上の壁を取り除くことが重要です。現行の106万円や130万円といった年収基準による社会保険加入要件は、短時間就労者の労働意欲を削ぎ、労働力不足を悪化させる一因となっています。
2025年6月13日に年金制度改正法が成立し、パートの社会保険加入要件としてあった「賃金月額8万8000円以上(いわゆる106万円の壁)」は3年以内に撤廃されることになりました。あわせて「51人以上の企業が適用対象」という条件も段階的に撤廃されます。
しかし、労働時間の壁(週20時間以上の要件)は残り、短時間勤務者や副業者には依然として影響が及びます。
さらに、経済団体や労働組合、有識者からは、「働き控え」を促しているとして「第3号被保険者制度」(主に専業主婦など)の見直しを求める声も上がっています。
負担の公平化や第2号被保険者への移行など、抜本的な改革が議論されており、その実現に向けた着実な進展が期待されています。
制度改革の方向性
今後の改革においては、以下のようなアプローチが考えられます。
・所得基準だけでなく就労時間や雇用形態に応じた保険加入基準の見直し
例:週20時間要件の緩和や、ギグワーカー・フリーランスへの適用拡大により、柔軟な働き方でも社会保障にアクセス可能にする。
・低所得者への社会保険料負担軽減や税額控除の拡充
手取り減少を防ぎ、賃上げが生活改善につながるように設計。
・社会保険と税制の一体改革による負担と給付のバランス調整
社会保険料と税負担を総合的に見直し、世代間・働き方間の公平性を確保する。
これらの改革により、就労時間を減らさずに働き続けられる環境を整え、賃上げの効果を社会全体に波及させることが期待されます。
持続可能な社会への道筋
人口減少は避けられない現実ですが、制度設計次第でその影響を和らげることは可能です。
賃金の底上げ、生産性向上に加えて、社会保障と税制の同時改革を進めることが、日本が持続可能な経済・社会を築くための鍵となります。
「賃金は上がったが、手取りは増えない」という状況を放置せず、労働意欲と生活の安定を両立させる政策が、これからの時代に求められています。