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広がる「自己責任社会」〜求められる金融リテラシー〜

「自己責任」という言葉が、まるで時代の合言葉のように広がっています。年金・医療・雇用など、かつては「国や会社が守ってくれる」と信じられていた領域で、「自分のことは自分で守る」ことが当たり前のように語られるようになりました。

 

その背景には、社会の支えが相対的に弱まっている現実があります。年金や医療などの社会保障制度は財政的な持続可能性が問われ、高齢化や少子化といった構造的な課題が制度を圧迫しています。「自助・共助・公助」のバランスが多くの国で議論されている中、日本でも「自助」への比重が強まりつつあるように感じられます。

 

金融リテラシー(お金に関する正しい知識と判断力)も、そうした時代に欠かせない力の一つといえるでしょう。

 

自分で備える時代に必要な力

国の財政状況も厳しく、「国がすべてを面倒見る時代ではない」という認識が、社会全体に広まりつつあります。

 

その象徴が、「貯蓄から投資へ」という政府の掛け声です。インフレと金利上昇が現実となる中、現預金だけに頼ることのリスクが増し、資産をどう守り、どう育てるかが一人ひとりに問われています。

 

日本では現在、エネルギー価格や食料品価格の上昇に加え、人手不足なども物価高の一因となり、家計を圧迫しています。一方、賃金の上昇は物価に追いつかず、実質賃金はマイナスが続いており、消費を抑える要因となっています。

 

つまり、インフレのときは、現預金だけで資産を保有していると、お金の価値が知らないうちに目減りしてしまうのです。こうした時代には、資産の守り方・増やし方を学ぶことが生活防衛の一環と言えます。

 

金融リテラシーは、もはや一部の人のスキルではない

金融リテラシーとは、単に株式や投資信託の知識にとどまりません。資産形成や収支管理といった家計に関する基本知識に加え、社会制度・税制・経済動向への理解も不可欠です。

 

たとえば、

・金融商品の仕組みやリスク、複利の効果

・物価上昇にどう備えるか

・金利の変化がローンや預金に与える影響

・税制優遇制度(NISA、iDeCoなど)の活用法

・社会保険制度のカバー範囲とその不足分

 

これらはすべて、年齢や職業を問わず、生活の土台となる知識です。そして、こうした知識を持つことが、「備えのある人生」を送るための分かれ道になる時代が来ています。

 

雇用環境の変化と働くことの意味

終身雇用や年功序列といった従来の雇用慣行が崩れ、副業や転職、フリーランスといった働き方が広がる中、個人にはより自律的なキャリア設計が求められています。

 

「人生100年時代」と言われる今、高齢者の就業率も上昇傾向にあります。健康である限り、働き続けるという選択肢は、経済的な自立だけでなく、社会参加や健康維持のためにも重要とされます。

 

もちろん、その前提となるのは、身体と心の健康で、これは人生設計には欠かせない要素です。

 

一方で、副業やフリーランスとして働く人が増えるなかで、自由な働き方の裏にある問題も顕在化しています。たとえば、企業による優越的地位の濫用や報酬の不安定さ、社会保険の未整備などです。

 

こうした課題に対応するには、雇用制度の見直しだけでなく、働く側にも契約内容・税制・制度の仕組みに対する理解と交渉力が求められます。それは単なる「リテラシー」という言葉では片づけられない、実践的な知識と判断力、そして行動力です。

 

「自己責任」と支え合いのバランス

もちろん、「すべて自己責任」で片づける風潮には危うさもあります。教育・雇用・家庭環境など、スタート地点の格差は現実に存在します。失敗や困難を抱えた人が「切り捨てられる」冷たい社会は、分断や不信が生まれるリスクもあります。

 

「知らなかった」「学ぶ機会がなかった」だけで不利な立場に追い込まれることがないよう、社会全体で金融教育を普及させていくことが求められます。公的支援とのバランスを見直し、誰もが再チャレンジできる社会の仕組みを整えていく必要があります。

 

最後に

「自己責任社会」を生き抜くには、資産形成やリスク管理に関する知識だけでなく、自分の人生を主体的に設計し、選択していく力が求められます。

 

金融リテラシーは単なる「お金の話」ではなく、生き方の選択肢を広げ、将来への備えを可能にする“力”です。

 

自分自身と大切な人の未来のために、いまからでも学びの一歩を踏み出してみませんか。