
2025年7月29日、内閣府は2025年度の経済財政報告(いわゆる「経済財政白書」)を公表しました。
今年の白書は、日本経済が戦後3番目の長さとなる景気回復局面にある一方で、内外の逆風によって個人消費が伸び悩む現状を詳しく分析しています。
日本経済はいま、「賃上げを起点とする成長型経済」への転換が問われる、まさに重要な分岐点に立たされています。
景気回復の兆しとその裏側
白書では、名目GDPが600兆円を超えたこと、2024年の春季労使交渉に続いてさらに高い賃上げ率が実現したこと、設備投資が過去最高を更新していることなど、景気回復の力強い兆しが強調されています。
しかしその一方で、食料品をはじめとした生活必需品の価格上昇が続いており、消費者マインドの冷え込みや実質賃金の伸び悩みによって、個人消費の回復は力強さを欠く状況が続いています。
さらに、2025年1月に発足した米国の第二次トランプ政権が打ち出した新たな関税措置は、日本経済に対して外需を通じた下押し圧力となっており、景気の持続性に不安をもたらしています。
個人消費が伸び悩む理由は?
白書では、賃上げや資産所得の増加により、家計の可処分所得や金融資産残高には改善の兆しが見られるにもかかわらず、個人消費が伸びない要因を3つの観点から分析しています。
1. 賃上げが「一時的」に見えている
まず、家計が現在の賃上げを「持続的」と感じていない点が挙げられます。内閣府の調査では、継続的な収入増加は一時的なボーナスなどに比べて消費を促進する効果が高いとされていますが、多くの世帯では将来的な収入の安定に対する期待が高まっていません。
これは、バブル崩壊後に就職した世代が、長年にわたり賃金の伸び悩みに直面してきたことや、若年層においては名目賃金が上昇していても物価の上昇により実質賃金が伸び悩んでいることが背景にあります。
2. 物価上昇が消費者マインドを冷やしている
次に、消費者の間で物価上昇が続くという見通しが広がっており、これが実際の消費行動を抑制する要因となっています。
とくに中高年層では、経験的な物価上昇をもとに将来の物価も上がると予想し、消費に慎重な姿勢をとる傾向が見られます。耐久消費財などを「今のうちに買っておこう」とする前倒し消費の傾向も見られにくくなっている点が、今後の消費拡大の障害となりかねません。
3. 将来不安による予備的貯蓄の増加
3つ目の要因は、老後の生活など将来への不安が消費を抑える要因となっている点です。
とくに単身世帯でその傾向が強く、将来に備える「予備的な貯蓄」が優先されることで、結果として平均消費性向はコロナ前の水準を下回ったまま推移しています。
今、求められる政策対応とは?
白書は、こうした消費低迷を克服するために、以下のような政策的取り組みの重要性を強調しています。
・2%程度の安定した物価上昇の早期実現
・実質賃金が持続的に上昇する環境の整備
・賃上げの「ノルム(社会通念)」の確立
・将来不安を軽減する持続的な社会保障制度の確立
これらの施策を通じて、家計が将来の所得に確信を持ち、安心して消費に踏み切れる環境を整えることが、日本経済の持続的成長に不可欠です。
成長型経済への移行なるか─日本経済の「分岐点」
現在の日本経済は、長年続いたデフレマインドやコスト削減志向から脱却し、賃金と物価が好循環する経済への転換期にあります。その道のりは容易ではありませんが、ここで内外の逆風を乗り越えられるかどうかが、今後の経済の方向性を大きく左右します。
日本経済が「賃上げを起点とする成長型経済」へと本格的に移行できるのか。2025年度は、その分岐点となる年になりそうです。