
日本経済新聞が一昨日掲載した「株長者」ランキング、ご覧になった方も多いかもしれません。
企業役員が保有する自社株の評価額から、その資産規模が浮き彫りになりました。
今回は、こうした富裕層に影響を及ぼす可能性のある税制改正の動きについてご紹介します。
長年、税制における不公平感として指摘されてきた「一億円の壁」。これは、所得が1億円を超えるあたりから、かえって所得税の負担率が低下するという現象を指します。
その背景には、金融所得などが分離課税として、総合課税よりも低い税率で課税される仕組みがあります。
財務省の「税制改正の解説」によれば、1億円を超える高所得者の所得構成をみると、非上場株式の譲渡所得が27.4%と最も多く、次いで土地建物の長期譲渡所得(21.3%)、上場株式等の譲渡所得(14.4%)と、いずれも分離課税の対象となる所得の割合が高い傾向にあります。
このような所得構造が、結果として高所得者層の実効税率の低下を招いているのです。
こうした課題に対し、政府や与党税制調査会ではこれまでも議論が重ねられてきましたが、2023年度税制改正において、ついに具体的な対策が講じられることとなりました。
それが、「特定の基準所得金額の課税の特例(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化)」の創設です。
課税強化の対象は「30億円超」の超高額所得者
今回導入された制度は、すべての高所得者を対象とするものではありません。実際に所得税負担率が著しく低下しているごく一部の超高額所得者、おおむね平均的な水準として30億円を超える所得を得た人に対して、最低限の税負担を求めるという内容です。
制度の概要
① 通常の所得税額
②(基準所得金額※ - 特別控除額(3.3億円))× 22.5%
→ ②が①を上回る場合に限り、その差額分を追加で納税する仕組み
※「基準所得金額」とは、たとえば配当所得や上場株式の譲渡所得など申告不要とした所得も含めて、土地建物の譲渡所得や給与・事業所得などを合算した金額をいいます。
ただし、源泉分離課税の対象となる預貯金の利子所得やNISAなどの非課税制度により課税されない所得は含まれません。
実際の影響は?
この制度の影響を具体的に見てみると、譲渡所得のみで収入を得ている場合には、おおむね10億円超の所得があると追加課税が発生する計算になります。
あくまで「極めて高い所得」に対する限定的な措置ではあるものの、超富裕層にも一定の税負担を求めるというメッセージ性をもった改正と受け取ることもできそうです。
なお、この改正は2025年分以後の所得税から適用されます。初年度の申告は2026年春の確定申告となる見込みです。
最後に
今回の改正は、長年の課題であった「一億円の壁」に対して、具体的な課税強化策が講じられたという点で、税制の公平性確保に向けた重要な一歩といえます。
一方で、適用対象が極めて限定的であることから、「金融所得課税の本格的な見直し」とまではいえない面もあります。今後、適用範囲の拡大や制度の見直しといった議論が進む可能性もあり、税制の動向には引き続き注目が必要です。
特に、高所得者層や資産家にとっては、資産の売却を分散させる(所得の平準化)など、所得や資産の構成が大きく偏っている場合には、今後の税制動向を見据えた慎重な検討が求められる場面もあるかもしれません。