OECDを中心に約140の国と地域が合意した「グローバル・ミニマム課税」は、多国籍企業による課税逃れを防ぐため、法人税率を最低15%とする新たな国際課税ルールです。
この枠組みに対し、G7各国が米国企業の「例外扱い」で合意したことが、大きな波紋を呼んでいます。
グローバル・ミニマム課税とは何か
この制度は、多国籍企業が税率の低い国に利益を移す「底辺への競争」を抑止するために設けられたものです。
各国が足並みを揃えて法人税率の下限を設けることで、課税逃れを防ぎ、税負担の公平性を確保しようとするのが狙いです。
アメリカ企業の「例外扱い」でG7が合意
しかし、トランプ政権はこの枠組みに対して強く反発。今年1月には、「米国において効力を有しないことを明確にすることで、国家主権と経済競争力を回復する」として、事実上の離脱方針を打ち出していました。
こうした中、6月26日、ベッセント米財務長官はSNSへの投稿で、G7各国が米国企業をグローバル・ミニマム課税の対象から除外することで合意したと明らかにしました。
G7内では、水面下の交渉を経て、アメリカの既存税制を国際ルールに適合すると認定し、例外扱いする方向で折り合ったとされています。
今後は、このG7合意を基に、OECD全体の枠組みに米国除外の合意を反映させていくことになりますが、加盟国の足並みが乱れる懸念もあります。
報復税条項「899条」の撤回へ
G7合意を受け、アメリカ国内で物議を醸していた「報復税」導入の根拠となる内国歳入法899条が撤回される見通しとなりました。
この条項は、「不公正な外国税に対する救済措置」として新設されたもので、米国に対して不公正な税制を適用していると財務長官が認定した国に対し、その国の企業や投資家が米国で得た利益に追加課税するという内容でした。
報復税条項には、米投資信託協会などからも「外国からの投資に冷や水を浴びせる」「公的・民間債務や株式市場に混乱をもたらす」といった強い懸念が寄せられていました。
今回の撤回は、こうした金融市場や経済界の反発を受けたものとみられています。
日本の立場と今後の展開
G7の中で日本政府は、公式なコメントを控える姿勢をとっています。加藤財務大臣も「詳細についてコメントする状況にない」と発言するにとどまりました。
これは、表向きは静観を装いつつも、今後のOECD全体の枠組み調整をにらんだ慎重な立場とも受け取れます。
ただし、アメリカを特別扱いすることについては、G7以外の新興国を中心に強い反発が予想されます。
G7主導で国際課税の枠組みが変更されることになれば、OECD全体の連携が損なわれ、国際的な課税ルールの信頼性が揺らぐおそれもあります。
デジタル課税問題は未解決のまま
今回のG7合意には、欧州諸国やカナダなどが導入しているデジタルサービス税(DST)の問題は含まれていないと見られています。
これに対し、トランプ政権は6月27日、カナダのDST導入を「明白な攻撃」と非難し、すべての関税交渉を即時に停止するとともに、新たな関税の導入を検討する方針を表明しました。
背景には、カナダが2024年にDSTを導入し、初回の納付期限が6月30日に迫っていたという事情があります。
しかし、カナダ政府は6月29日、DSTの撤回を発表。これを受け、両国は交渉の再開で合意しました。
DSTはフランス、イタリア、英国など欧州諸国でも導入されており、米国はこれらの国に対しても撤回を迫ってきました。
今後、米国と各国との間でデジタル課税をめぐる対立が一層激化する可能性があります。
最後に
今回のG7合意は、アメリカの政治的・経済的事情に配慮した「例外措置」とも受け取れる内容です。
法人税の最低課税という国際的な枠組みの理念が揺らぐ中で、租税回避への対応、経済格差の是正、そして国際協調の維持という課題は、今後ますます複雑化していくことが予想されます。
各国の利害が交錯するなか、日本としても自国の競争力と国際協調のバランスをいかに取っていくか、慎重で戦略的な対応が求められています。