「私たちはお客様に寄り添うパートナーです」「お客様の利益を最優先にしています」
これは金融機関の広告で繰り返し見かけるフレーズです。
洗練されたオフィス、丁寧なもてなし、笑顔のスタッフ。そこには確かに「信頼できそうな空気」が漂っています。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみましょう。「中立」とは、そもそもどういう意味なのでしょうか。
金融機関は毎年、新聞、雑誌、インターネット、SNSなどを通じて、何百億円もの広告費を投じています。
その目的は、「私たちは信頼できるパートナーです」と印象づけること。そして、「この人たちと一緒にやればうまくいく」と投資家に思わせることです。
けれども、「中立的なアドバイザー」とは本来、金融商品の販売者ではなく、商品選びそのものを評価する立場であるべきです。
販売インセンティブと助言の中立性は、構造的に両立しづらいという現実があります。
たとえば、金融機関による助言や運用サポートの対価が、弁護士や税理士のように「請求書」という形で明示されていたとしたら、私たちはどう感じるでしょうか。
ニコラ・ベルベ著『年1時間で億になる投資の正解』でも指摘されているように、金融のプロフェッショナルの中には、中立的な立場にない者が存在するという事実を忘れてはなりません。
弁護士や税理士などの報酬は依頼者から直接支払われますが、金融機関の多くは、投資家の資産運用から一定割合の手数料を「目立たぬ形で」差し引くビジネスモデルを採用しています。
この仕組みでは、運用商品を販売する金融機関や担当者は、投資家に長期的な利益をもたらすかどうかよりも、自らの収益を安定的に確保できるかに関心が向きやすくなります。
提示される商品が、その設計段階から「彼らにとって都合のよい構造」になっていることも少なくありません。
たとえば、あなたの資産が1億円あるとします。年末に金融機関から「200万円(運用資産の2%)の手数料をお支払いください」という請求書が届いたら、納得して振り込むでしょうか?
おそらく多くの人は、そのとき初めてコストの重さに気づくはずです。
現状では、こうした手数料は運用資産の中から自動的に差し引かれるため、支払いの実感が乏しく、「なんとなく無料で相談しているような感覚」になりやすいのです。
かつて横行していた投資信託の回転売買や仕組債の販売、そして現在も見かける各種キャンペーン。一見お得に見えて、実は損をする可能性のある“罠”が存在します。
たとえば、キャンペーン期間中の高金利をうたう定期預金は、期間終了後に金利が大幅に下がるリスクがあり、注意が必要です。
また、高額なプレゼントや特典を条件に口座開設を促すキャンペーンも、開設後の維持費や手数料が意外と高額になるケースがあります。
政府は「貯蓄から投資へ」の流れを促進し、NISAやiDeCoの制度を拡充するなど、個人の資産形成を支援する政策を進めています。
これにより、投資に関心を持つ人は確実に増えており、金融商品への入り口も広がっています。
一方で、投資初心者の多くが最初に頼るのは、やはり金融機関です。しかし、前述のとおり、その助言が本当に中立であるかを見極めるのは容易ではありません。
たとえば、昨年活動を開始した J-FLEC(金融経済教育推進機構)は、金融機関に属さず、金融商品の販売も行っていない中立的な立場から、個人に寄り添った情報提供やアドバイスを行っています。
こうした第三者的な立場の団体や専門家の情報を活用することで、私たちはより冷静かつ公平な視点で金融の意思決定を行うことが可能になります。
最後に
現在の仕組みは、いったい誰の利益のために存在しているのでしょうか。
投資家のためではなく、金融機関自身の利益のためではないのか。そう疑ってみる必要があります。
投資家として求められるのは、「中立」を掲げる人が本当に中立なのかを見極める目と、その報酬構造が誰に有利なのかを冷静に判断する力です。
おしゃれなオフィスや心地よい応対の裏にある「本当のコスト構造」に目を向けたとき、見えてくる風景は大きく変わるかもしれません。