政府は、高齢者向けに新たな投資制度「プラチナNISA(仮称)」の創設を検討しています。
2024年から始まった新NISA制度では、毎月分配型の投資信託は購入対象外となっており、長期・積立・分散に適した商品が主流となっています。
これは、毎月分配型投資信託が長期的な資産形成に不向きであり、複利効果を活かしにくいことに加え、元本の取り崩しや高コスト構造が資産増加の妨げになるため、NISAの趣旨にそぐわないとされているからです。
しかし、高齢者層にとっては、運用益を再投資するよりも「毎月の現金収入」が重視される傾向があります。
このニーズに応えるかたちで、毎月分配型ファンドを対象とするプラチナNISAが構想されているようです。
高齢者にとって毎月分配型投資信託は、いわば「第二の年金」としての役割が期待されています。
退職後、収入が年金のみに限られる世帯にとっては、毎月一定額が口座に振り込まれる安心感は大きな意味を持ちます。
こうした背景から、プラチナNISAでは毎月分配型ファンドを非課税対象にすることで、高齢者の資産運用と生活設計の支援を目指していると考えられます。
ただし、ここで一度立ち止まって考える必要があります。毎月分配型投資信託は、分配金の原資が必ずしも運用益とは限らず、元本を取り崩しているケースも少なくありません。
その結果、トータルリターンが伸び悩んだり、信託報酬などのコスト負担が大きくなったりするというデメリットも指摘されています。
また、現行のNISA制度では債券を直接保有する形での投資は非課税対象外となっているため、安定的な利回りを望む高齢者にとっては選択肢が限られるという問題もあります。
もし、プラチナNISAで国債や地方債などの債券が対象に加われば、「債券の利払い=定期収入」として、毎月分配型ファンドの代替手段となる可能性があります。
さらに見逃せないのが、楽天証券やSBI証券など一部の金融機関で導入されている「投資信託定期売却サービス」の存在です。
これは、保有している投資信託から毎月一定額または一定割合を自動的に売却する仕組みで、運用商品の選択肢を広げながら「毎月現金を受け取る」という目的を達成できます。
むしろ、長期的な資産形成や運用効率の観点からは、毎月分配型投信よりも定期売却サービスのほうが優れていると評価されることもあります。
もっとも、元本取り崩しによる資産減少リスクは共通しているため、計画的な利用が重要です。
信託報酬が比較的低いファンドを活用すれば、毎月分配型特有のコストやパフォーマンス面での問題を回避できる可能性があり、より合理的な手段といえるでしょう。
こうした仕組みを活用すれば、退職者が老後資産を使い果たさないよう、引き出し額の目安を定める「4%ルール」の実行も可能になります。
この「4%ルール」とは、米国のファイナンシャルアドバイザーであるウィリアム・ベンゲン氏が提唱した資産の引き出し戦略で、要約すると「退職後、運用資産の4%を毎年取り崩すことで、30年間資産を枯渇させずに維持できる」という考え方です。
市場の変動にもある程度耐えうる計算に基づいており、定期売却サービスと組み合わせることで、計画的に老後資金を活用する道が開けます。
せっかく積み立てた資産を、いざ取り崩す際の参考にもなるのではないでしょうか。
プラチナNISAの導入が実現すれば、高齢者にとって資産運用の新たな選択肢となるかもしれません。
しかし、「毎月分配=高齢者に優しい」と単純に捉えるのではなく、制度のコストやリスク、そして代替手段の存在を踏まえたうえで、慎重な制度設計が求められます。
「定期的な現金収入を得たい」というニーズに対して、本当に毎月分配型でなければならないのでしょうか。
債券や定期売却サービスといった選択肢も含めて、より柔軟で持続可能な制度を目指すべきではないでしょうか。