
消費税の納税義務者
事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務がありますが、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業者については、納税義務は免除されます。
課税期間とは、納付すべき消費税額の計算の基礎となる期間であり、原則として、個人事業者は暦年(1 月1日から12月31日まで)、法人は事業年度をいいます。
基準期間とは、個人事業者についてはその年の前々年、法人については、原則として、その事業年度の 前々事業年度をいいます。
消費税の納税義務の判定は当該事業者の「課税期間における課税売上高」でなく、「基準期間における課税売上高」という過去の一定期間における課税売上高により行うこととされています。
それは、その課税期間が課税事業者に該当するかどうか、特に免税事業者から課税事業者となる場合には、
・事業者自身が事前に予知しておく必要があること
・課税事業者となる場合には、消費税法に規定する帳簿の記載などが必要
となりますので、これらに対する事前準備や簡易課税制度を選択する、あるいは免税事業者が課税事業者となることを選択する場合は、その課税期間の開始の日の前日までに所定の届出書を所轄の税務署に提出すること
などからも、事前に予知しておく必要があるためとされています。
相続で事業を引き継いだ場合
免税事業者の方が相続により被相続人の事業を承継した場合の消費税の納税義務は次のとおりとなります。
相続があった年
相続があった年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である相続人(課税事業者を選択している者を除きます。)が、当該基準期間における課税売上高が1,000万円を超える被相続人の事業を承継したときは、相続があった日の翌日からその年の12月31日までの間の納税義務は免除されません。
なお、当該規定は、被相続人の基準期間における課税売上高だけで納税義務の有無を判定するものですが、相続があった年に、年の途中から、しかも相続の直後に煩雑な事務処理をしなければならないことにならないように配慮されたものとされています。
相続があった年の翌年または翌々年
相続があった年の翌年または翌々年の基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高との合計額が1,000万円を超える場合は、相続があった年の翌年または翌々年の納税義務は免除されません。
相続があった年の翌年または翌々年の基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高との合計額が1,000万円以下である場合は、相続があった年の翌年または翌々年の納税義務が免除されます。
ただし、この場合であっても、相続人が課税事業者を選択しているときは納税義務は免除されません。
なお、相続人が簡易課税を適用していた場合において、簡易課税制度の適用の可否は、相続人の基準期間における課税売上高(5,000万円以下か否か)のみによって判定することとなります。
共同相続の場合
被相続人に複数の相続人がある場合において、被相続人の事業を相続人のうち一人が事実上承継しているとしても、当該相続財産が実際に分割実行されるまでの間は被相続人の事業を承継する相続人は確定していないことから、各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱うこととなります。
この場合において、被相続人の基準期間における課税売上高に法定相続分に応じた割合を乗じて算出した金額を各相続人の基準期間における課税売上高として、各相続人が課税事業者となるかどうかを判定します。
相続の遡及効による納税義務の再判定の要否
民法では、遺産分割は相続開始の時に遡ってその効力を生ずると規定されていますが、消費税の納税義務は遡って再判定する必要はないとされています。
消費税の納税義務者に該当するかどうかは、事業者自らが事前に予知しておく必要があり、また、上記の共同相続の場合の取扱いのとおり、相続財産が未分割の場合における納税義務の判定方法が示されています。
このようなことから、事業者が、判定時点での適正な事実関係に基づき消費税関係法令等の規定に従って納税義務が判定されたものである場合にはその判定が認められるものとされています。