ビジネスケアラーの増加とその背景
働きながら親などの介護をする「ビジネスケアラー」が、高齢化社会の中で増えています。
介護する家族がいるため、フルタイムで働けない、夜勤や遠隔勤務が難しいなどの制限がある場合も少なくありません。
老後の資金計画の難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。
2025年にはすべての団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、介護が必要な人がさらに増加すると予想されています。
同時に、共働き世帯の増加、さらには少子化や晩婚化、非婚化が進み、兄弟や夫婦で介護を分担できるケースが減少し、ビジネスケアラーの負担が重くなっています。
今後、生産年齢人口の減少に伴い、更なる人材不足が加速する中、仕事と介護を両立する従業員は増加していくことが見込まれています。
経済産業省が3月に公表した「仕事と介護の両立支援に関す経営者向けガイドライン」によれば、2030年には家族を介護する人のうち4割にあたる318万人がビジネスケアラーになると予測されています。
ビジネスケアラーの負担増加と経済的損失
ビジネスケアラーの多くは企業の中核を占める40〜50代の管理職世代です。 介護は育児と比べて拘束期間が長く、時間が経過するほど体力的・精神的負担が増える傾向があります。
また、介護サービス利用費用や介護離職による収入減により経済的負担も抱えています。
毎年約10万人以上を数える介護離職や介護に伴う物理的・精神的負担等による労働生産性の低下に伴う経済損失額は9.1兆円に上る見込みで、この損失額を減らすことは社会全体が対応すべき課題とされています。
社会全体の課題としての取り組み
このため、ビジネスケアラーを支援する取り組みが重要視されています。ビジネスケアラーの増加は、企業にとって生産性の低下や人材確保の課題につながります。
企業によっては、介護休暇制度の拡充、在宅勤務制度の導入、介護に関する相談窓口の設置など、ビジネスケアラーを支援する制度を充実させています。
これは企業だけの問題ではありません。少子高齢化が進む日本社会全体で取り組むべき重要な課題です。
厚生労働省が5月に公表した新たな推計では、2040年には認知症患者は584万人にのぼり、65歳以上の高齢者のおよそ15%、6.7人に1人の割合とされ、2022年の443万人から大幅に増えると見込まれています。更にそれより多くの高齢者が軽度認知障害(MCI)になる見通しです。
法改正と企業の対応
今般、改正された育児・介護休業法は、企業に対し、介護負担を抱える社員らに自社の支援制度を周知したり、制度の利用意向を確認したりすることを義務付けています。
この法改正により、介護と仕事の両立がより柔軟になり、企業の支援体制も強化されることが期待されています。介護離職の防止と労働者の職場定着が目指されています。
企業は、ビジネスケアラーが抱える課題を理解し、相談しやすい環境づくりと柔軟な働き方の提供が求められます。仕事と介護の両立について企業経営上の優先順位を高める経営層の理解と制度整備が不可欠です。
最後に
ビジネスケアラーの方は、老後資金計画を立てる上で多くの課題を抱えています。共働き世帯は、収入が増える反面、育児や介護との両立で、思うように貯蓄できないケースも少なくありません。
しかし、早めの準備、各種制度の活用、家族との話し合い、企業や行政の支援などによって、乗り越えることは可能です。
仕事と介護の両立支援は、企業や政府にとっても重要な課題です。企業は、柔軟な勤務制度や介護休暇の取得を促進する制度などを整備する必要があります。政府は、介護サービスの拡充や経済的な支援策などを充実させる必要があります。
誰もが認知症やMCIになり得ることを踏まえ、1人暮らしの高齢者も増えていく今後、認知症になっても地域で暮らしていける環境の整備が課題です。誰もが介護を必要とする可能性があることを理解した社会づくりが求められています。