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なぜ法人の実質的支配者の透明性が必要なのか?

 近年、国際的に法人の悪用防止に向けた議論が活発化しています。

 その背景には、パナマ文書やパンドラ文書などの情報漏洩事件で、法人の実質的支配者情報が隠匿され、違法な資金洗浄や脱税などに利用されていた事実が明らかになったことがあります。

 

 こうした問題に対応するため、財務省は4月18日、新たなマネーロンダリング(資金洗浄)対策に取り組む方針を表明しました。

 

 具体的には、当局による、金融機関等が保有する企業の実質的支配者の情報への迅速・効率的なアクセスを確保する情報照会システムの活用等を検討しています。

 

1. 法人の実質的支配者の透明性が必要な理由

 法人は商業活動を支える重要な役割を担っていますが、一方で、違法に取得された資産を隠すために利用されることもあります。実質的支配者情報の透明性を確保することで、このような法人の悪用を防ぎ、脱税やマネーロンダリングなどの犯罪を抑制することが期待されています。

 

2. 実質的支配者とは?

 実質的支配者とは、法人を最終的に支配・所有している自然人を指します。具体的には、日本においては法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接または間接に有していると認められる自然人等をいいます。

 

3. 国際的な取り組み

 マネーロンダリング対策等の国際基準(FATF勧告)の策定・履行を担う多国間枠組みとして設立されたFATF(金融活動作業部会)には、日本も含め38か国・地域と2地域機関が加盟しています。FATF(ファトフ)とは、Financial Action Task Forceの略称です。

 

 FATFは、法人の実質的支配者情報の透明性確保に関する勧告24を策定しており、加盟国はこれを履行する必要があります。FATFが策定した勧告等に基づいて、加盟国が相互にマネロン等対策の政策を審査しています。

 

4. 日本の取り組み

 日本政府は、FATF勧告24の履行に向けて、以下の3つの対策を講じています。

 

金融機関等による取引時確認義務

 金融機関等は、法人の顧客と一定の取引を行う際に、当該法人顧客の実質的支配者の情報を確認する必要があります。

 

公証人による法人設立時の実質的支配者確認

 法人設立時の定款の認証手続において、公証人は、嘱託人に法人の実質的支配者に関する事項を申告させ、暴力団員や国際テロリストに該当しないことを確認した上で定款の認証を行います。

 

商業登記所による実質的支配者リスト制度

 商業登記所が株式会社からの申し出により実質的支配者リストを保管しその写しを発行する制度が導入されています。

 

5. 今後の課題  

 日本の取り組みは、法人の実質的支配者の透明性確保に一定の効果を上げていますが、更なる強化が求められています。

 2021年に公表されたFATF第4次対日相互審査において、日本の評価は「一部適合」4段階中下から2番目の評価、不合格水準)と厳しい評価でした。2008年に公表された前回3次審査の結果と比較すると改善されているものの、勧告に適合するために更なる措置が必要です。

 

 法人の実質的支配者情報の透明性確保は、租税回避やマネーロンダリング対策の強化に不可欠です。今後、さらなる国際的な連携と国内制度の整備を進めていくことが重要です。