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なぜ、調査では期末近くの取引が着目されるのか?

 バブル期以来の日本株最高値更新に見られるように、日本企業の業績は好調です。

 決算期が近づくにつれ、今期の利益(所得)が大体見通せるようになります。所得増加は喜ばしいことですが、税金はなるべく納めたくないというのが人情です。そこで、所得を少なく見せようとするインセンティブが働きます。

 

 一般的に、所得を少なく見せる手法としては、売上を翌期に繰り延べる・除外する、翌期の経費を繰上計上・架空計上するなどが行われます。そのため、税務調査では期末及び翌期首付近の取引を調べ、こうした処理が行われていないかを確認します。

 

 先日の日経新聞にも、そうした行為を窺わせるちょっと気になる記事がありました。

 

 近年、政府・日銀は「賃金と物価の好循環」を目指し、賃上げを促進しています。多くの企業が昨年に続き今年も大幅な賃上げを実施しており、賃上げに取り組んだ企業は「賃上げ促進税制」により法人税が優遇されます。さらに、賃上げに加えて従業員の研修費(教育訓練費)を前年比で一定程度増加した場合には税優遇の上乗せが受けられます。

 

 企業としては、少しでも所得を圧縮したいという動機がある以上、少しでも多くの教育訓練費を計上したいと考えます。

 記事によると、翌年度に実施する研修の「前倒し契約」を持ち掛ける動きが広がっており、研修事業会社には今年度中に翌年度分の研修契約を結び、代金も請求してほしいという打診が増えているようです。

 顧客には金融やメーカーといった大手企業も含まれ、数千万円規模の取引も対象となっているといいます。

 当該取引については短期前払費用という論点もありますが、ここでは省略します。

 

 上述したように、こうした取引は税務調査で必ず調べられます。最悪の場合、ペナルティの対象とされる可能性もありますので注意が必要です。これまで税務調査を経験してきた者として、会社の動機は十分理解できますが、必然的に不正行為を行いやすい期末付近の取引に着目することになります。

 

 社内の監査等でこうした取引を把握し、決算修正や自己否認(4表加算)などで自ら正している会社もあります。このような場合は税務上の問題とはならないため、調査官にとっても調査対象とはなりません。

 

 期末近くの取引は、企業にとって節税対策のために行われることが多く、不正行為が行われやすいといえます。税務調査では、こうした取引を重点的に調査し、不正行為の有無を厳しくチェックします。

 企業は、内部監査を強化し、不正行為を未然に防ぐとともに、自主的な修正を行うことで、課税リスクの軽減を図ることが重要です。