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財産債務調書制度の見直し

財産債務調書制度の改正前後の図表
財務省HP〜令和4年度税制改正〜

 財産債務調書制度は、所得税及び相続税の申告の適正性を確保する観点から創設されました。

 

 2022年度税制改正で、富裕層に対する課税強化を意識した見直しが行われました(図表参照)。

 

 この見直しは、今年の確定申告(2023年分の調書)から適用されますので、そのポイントと注意点についてご紹介します。

 

提出義務者の範囲拡大

 従来の財産債務調書制度では、その年の退職所得以外の所得金額の合計額が2,000万円以下であれば、仮に高額の資産を保有していたとしても、財産債務調書の提出義務がありませんでした。

 しかし、所得金額を抑えることによって提出義務を免れることができるなど、納税者の資産の異動状況等について、十分に把握できているとは言い難い状況でした。

 

 そこで、見直しでは、提出義務者の範囲については、現行の提出義務者に加えて、所得金額にかかわらず「総資産額10億円以上」も対象と拡大されました。

 つまり、年末時点で保有する総資産額が10億円以上である人は、必ず財産債務調書を提出しなければならないこととなりました。

 

提出期限の延長

 また、財産債務調書の提出期限も延長されました。従来は3月15日でしたが、見直しでは6月30日までとなりました(国外財産調書も同様)。これは、保有財産の種類・数量・価額を正確に算出・記載することが容易ではないことや、確定申告と同時に行うことが負担になることを考慮したものです。

 これにより、確定申告とは別に時間的余裕を持って財産債務調書を作成・提出することができます。

 

記載事項の簡素化

 さらに、記載事項も簡素化されました。提出義務者の事務負担軽減のために、財産債務調書・国外財産調書の記載事項の一部については、記載を省略することができるようになりました。

 

 一方で、適正な提出を促すために、過少申告加算税等に関する措置も導入されました。具体的には、財産債務調書を期限内に提出した場合は5%軽減される一方、提出しなかった場合などは5%加重されるというものです。

 

まとめ

 財産債務調書制度は、富裕層や海外取引のある納税者による国際的な租税回避に対応するために、国税庁が情報収集・活用を強化するための制度です。この制度のほかにも、国税庁は、執行体制の整備・拡充や外国当局との連携等を推進し、富裕層などに対する調査を積極的に行っています。

 財産債務調書や国外財産調書に記載された内容と、申告書の内容が矛盾しているような場合には、調査対象に選定される可能性が高くなります。

 

 見直し後は、提出義務者の範囲が拡大されたことや提出期限が延長されたことを踏まえて、正確に作成・提出することが求められます。提出期限が延長されましたが、財産債務調書の作成には相応の時間がかかりますから、早めに準備に取りかかることが大切です。